金と時間を返せ!〜RSC&ウースターグループ『トロイラスとクレシダ』

 ハマースミスのリヴァーサイドスタジオでRSC&ウースターグループの『トロイラスとクレシダ』を見たのだが、今まで見たシェイクスピア上演の中でもワースト10に入るくらいひどかった。

 この公演はマーク・レイヴンヒルが監修するRSCの役者たちとエリザベス・ルコントが監修するニューヨークのウースターグループの役者たちがそれぞれギリシア軍とトロイア軍を演じるというものなのだが、まずこの二つの軍の演出の調子が決定的にあってない。なんか違う芝居を交互にやっているみたい。

 ギリシア軍のほうはまあたいして面白くはないが怒るほどのことはないふつうのシェイクスピア劇である。マーク・レイヴンヒルはもっとできる人のはずなので期待はずれっちゃ期待はずれだが、「ゲイテイストを織り交ぜて意欲的にやったつもりがうまくいかなかった」感じなので一応理解はできる。それにスコット・ハンディ演じるユリシーズは大変良くて、ナーディで一見温厚そうなおじさんがアキレウスやエイジャックスを甘言で釣るところとかはとても面白く、「ユリシーズってこんなによく描けた役だったんだな」と思った。ただ、メタルバカ野郎のエイジャックスとか、車椅子にのったドラァグクイーンのサーサイティーズはけっこう寒い。発想自体は悪くないように思えるので、もっといくらでも面白くなっただろうに…

 しかしトロイア軍がとにかくひどい。なぜかトロイア軍はネイティヴアメリカンの扮装で出てくるのだが、ほとんどの役者が白人で、コンセプトがよくわからないし演技の力業でそれをカバーすることもできていないので、まるでブラックフェイスのミンストレルショーを見ているかのような猛烈な不快感に襲われた。とりあえずなんでこんなことにしたのか考えてみたのだが、たぶん腐敗ぎみの覇権国家であるギリシアと勇敢だが敗北するトロイアの対比なのか…と思ったんだけどそれはちょっと類推が陳腐すぎるような気もするし、トロイア人で勇敢そうに見えるのがヘクターだけで(トロイラスとか超弱そう)全然勇敢に見えないのでいったいなんでこんなことになったのか結局さっぱりわからなかった。

 あとクレシダがかなりひどい。トロイア軍は全員なんだかよくわからない超聞き取りづらい一本調子なアクセントでしゃべるので(レビューのコメント欄を見ると英国人もアクセントがよく理解できなかった様子なのだが、どうもミネソタ訛りではないかという話)、そもそもセリフがよくわからなかったのだが、クレシダがまあとにかく棒読みで弱そうで存在感がなく、自分の美貌でどうにか戦争を切り抜けようとしているしたたかなマテリアルガールには到底見えない。後半部分で半裸で出て来てそのままギリシア軍に連れて行かれたり、舞台の上でおっぱい丸出しにして着替えたりするあたりは全くナメてんのかと思った。クレシダに限らず、若くてそこそこ自分の容姿に自信のある女が寝間着同然の姿でギリシア軍に行くわけねーだろ!その前の「お嬢様の準備はできましたか?」というセリフともあってないし…全体的にクレシダの演出がひどすぎてまるで統一感のある一人の人間とは思えない。

 まああと全体的に舞台のヴィジュアルもよろしくない。四方に小さいテレビが設置され、そこに字幕つきの映像(ネイティヴアメリカンの映像とか昔の映画のフッテージとか)が映るのだが、字幕も画面も小さすぎて何が映っているのか客席からはほとんど見えず、また役者がたまにテレビを見ながら台詞をしゃべったりするんだけどこの目線の動きが異常に不自然。この無意味でペダンチックなヴィジュアルは何なんだ…

 と、いうわけで、最悪の『トロイラスとクレシダ』だった。なんでもストラットフォード・アポン・エイヴォンのスワン座でやった時は途中で怒って席を立つ客続出だったらしいのだが、ハマースミスリヴァーサイドは構造的に途中で席を立つのが難しいので3時間半は全く拷問であった(インターバルで帰れば良かったとつくづく思った)。