ハックニーエンパイア座、オールメール版『ペンザンスの海賊』

 ハックニーエンパイア座でサーシャ・リーガン演出、オールメール版『ペンザンスの海賊』を見てきた。

 ハックニーエンパイア座は国の指定建築物で、20世紀初頭のミュージックホールの雰囲気をよく残している建物である。

 あらすじはこの間のを見ていただくとして、このプロダクションの特徴はオールメールだということ。このオペラの女役はけっこう歌も難しいし喜劇的センスが必要なので見かけよりきついと思うのだが、それももちろん男性歌手が演じている。

 …で、最初はピアノがヘタすぎてどうしようかと思った。この間のキングズヘッド座の上演では連弾でヴォリュームもあるし2人とも上手だったので安心して聴けたのだが、この上演ではピアニストがソロでしかも最初っからかなり失敗しており、海賊の歌とかリズムがもたついたりして歌手がかわいそうだった。だいたいパブならまあいいけど(これ、最初はもっと小さい箱でやってたらしいからその時はまだよかったのかも)、こういう大きい劇場でたくさんの歌手が出る上演なら小規模でも楽団を連れてきたほうがいいのでは…?まあ伴奏面では最後までかなり不満が残った。

 とはいえ、将軍の娘達が出て来てからはどんどん面白くなり、ヘタクソな伴奏も忘れられる楽しさ。女形たちは日本の演劇に出てくる女形とは違ってカツラをかぶったりはせず、短髪のまんまで白いドレスを着ており、どっちかというとプロペラの女役に近いのだが、もともとサヴォイオペラってヴィクトリア朝の慣習にのっとりつつ、ステレオタイプ的な「若くて何ものをもおそれぬ上流階級の娘たち」をかなり人工的に強調した感じで描いていると思うので、そういうのを男性がやるといかにも「この子たちは女のフリをしてます!」という風味がはっきりしてきて、見ているほうはなんかえらくすんなりオペラの世界に入り込めた。メガネっ娘がいたりとか娘達のキャラがけっこうはっきりしていてコミカルだし、メイベル役の人は難しい'Poor wand'ring one'なんかをとても可愛らしくこなしていて歌のほうも文句なし。

 そういうわけでとても面白かったので非常にオススメなのだが、エンパイアはでっかい劇場なのでガラガラだったな…もっとみんな行くべき。客層はいかにもギルバート&サリヴァンオタクな感じのおばちゃまおじちゃま(休憩時間はみんなアリアを鼻歌…)が多く、あと子供や孫を連れてきている人もたくさんいて、こうやってイギリスのオタク文化というものが受け継がれていくのか…と思ってしまった。