パレス座『雨に唄えば』〜ジーン・ケリーよりちょっとポッシュなアダム・クーパー

 パレス座で舞台版『雨に唄えば』を見てきた。

 舞台版は80年代に初めて制作されたもので、これはそのリヴァイヴァルらしい。話は映画と同じだし、映画で使われた主なナンバーは全部入っているのだが、舞台らしくするということでレビュー的な場面がもっとたくさん入っており、キンキン声のリーナ・ラモントにもコミカルな歌がふられていたりする。1920年代末ということでジャズエイジ風のバーレスクを取り入れたショーガールのダンスもあり、これは嬉しい。まあ話はもともと出来のいい話なので安心して見られるし、歌も踊りも楽しいし、文句なし。

 とりあえずお目当てはアダム・クーパーだったのだが、歌はふつうというかまあまあという感じだけど、本職バレエダンサーなのにこんだけ歌えればいいかという感じはする。ダンスはやっぱりステキで、一幕最後に舞台にすごい量の雨を降らせて踊る『雨に唄えば』は大変良かった。びしょ濡れになって華麗な足さばきで水を客席に巻き上げながら踊るアダムはまさに眼福。あんだけ雨が降ってて滑るだろうに、ステップがすごく正確で軽やかなのにはほんとに感心した。最前列は水かぶり席でビニルなどで保護してたようだが、お客さんたちは水かけられて大喜び。ただ、映画版のジーン・ケリーのあのワーキングクラスの色男ふうなのにカンペキに紳士的だというステレオタイプを裏切る独特の個性はアダムにはないので、全体的に映画のケリーより若干ポッシュというかわがままなおぼっちゃん風な気がする。

 こちらがアダム・クーパー

ジーン・ケリー

 あと、映画ではおそらく編集でカバーしているのであろう複雑なダンスシークエンスを生で実際にやっているのはやっぱりすごいと思う。映画みたいにいろんなカットをめまぐるしくつなげない分スピード感には欠けるのだが、'Make 'Em Laugh'みたいにいかにも映画だからできる、みたいなダンスをきちんと再現しているのは独特の緊張感があって本当に面白い。あと'Good Morning'でジョン、コスモ、キャシーの三人が一緒にイスにあがって倒す場面とかも全部生でちゃんとやっており、ばっちりタイミングがあっててすごいなと思った。

 しかし、この舞台、サイレント映画の時代の雰囲気をよく再現したセットはもちろん、舞台に雨を降らせたり、トーキー初期の映画で音声がズレちゃってヘンになるというおなじみのギャグもきちんと再現したり、細かい美術や機材の扱いにもいろんなテクニックが使われていて、実はこの舞台の真のスターは美術・技術担当のスタッフなんじゃないかとも思った。アダムの『雨に唄えば』ダンスの後、一幕と二幕の間の休憩時間にスタッフが出て来て舞台を完全に掃除して乾かしていたのだが(掃除が終わった時お客さんから拍手が)、最後にまたアンコールで全員が出て来て雨の中『雨に唄えば』を踊るサービスがあって舞台がまたびしょ濡れに…毎日ステージを良好な状態に保っち、セットをきれいに保全しているスタッフの努力には頭が下がる。