グラインドボーンツアー『フィガロの結婚』、ニューウィンブルドン座〜ツアーではスポーツカーをカット…

 ニュー・ウィンブルドン座でグラインドボーンツアー公演『フィガロの結婚』を見てきた。言わずとしれたモーツァルトの有名オペラで、グラインドボーン音楽祭伝統の演目でもあるのだが、今回は演出を一新したバージョンらしい。

 舞台は1960年代あたりのスペインの田舎の屋敷ということになっており、フィガロの婚約者スザンナに色目を使う伯爵はいかにも60年代ヨーロッパの色男ふうなファッションだし、結婚式の場面ではツイストやらスウィングをモーツァルトにあわせて踊るなどの工夫がある。ただ、グラインドボーンでは伯爵が赤いスポーツカーに乗って入ってくる演出があったらしいのだがツアーではこれはカットしたようで、そのせいで年代一見したところではわかりにくくなっている。この間同じ箱でやった『9時から5時まで』では車を持ち込む演出をやっていたので、今回も無理してでもスポーツカー持ってきたほうがよかったのでは…

 セットは最初の二幕は割合フツーな感じの屋敷の内装なのだが、後半二幕はかなり凝っている。第三幕の結婚式の場面のセットはイスラム美術風のモザイクに囲まれた屋敷の一画(半分屋外みたいな感じの、いかにもスペインふうな部屋)、第四幕は池までついてる中庭で、この二つの場面のセットは本当に美術頑張ったなという感じ。

 そういう感じで美術や演出などには非常に工夫が見られると思ったのだが、せっかく1960年代スペインに舞台を設定するんならもっとめちゃくちゃやってもよかったんじゃないかと思う。フランコ政権が1975年につぶれていてこの設定だとその直前なので、もっと全体的にダークな雰囲気にして、ワーキングクラスの若者たちが伯爵の権力を転覆する感じを強調してもよかったんじゃないだろうか。今の感じだとセットがスペインなのに伯爵の脳天気なフリーセックスは60年代のヨーロッパの他の自由主義の国々でもいいような感じで、あまり舞台をフランコ政権下のスペインにしたのが生きてないようにも見える。

 とはいえ、全体的にはとても楽しく見られる気の利いた喜劇になっていると思った。とくにケルビーノが伯爵夫人に純情丸出しで求愛し、夫を愛している伯爵夫人があまりのケルビーノの真摯さに一瞬ほだされかけるあたりの微妙な呼吸とかは大変良い(なんでもボーマルシェの原作ではこの続編でケルビーノと伯爵夫人は不倫するそうな)。ま、スポーツカーがあったらもっと良かっただろうなぁ…