恋愛ではない、金こそがドラマを作る〜18世紀の書簡体恋愛小説フランセス・ブルック『レディ・ジュリア・マンデヴィルの物語』

 フランセス・ブルックが1763年に発表した書簡体恋愛小説『レディ・ジュリア・マンデヴィルの物語』(The History of Lady Julia Mandeville, Chawton House, 2013)を読んだ。どういうわけだが2013年出版ということになっているのにもう入手できる。

 主人公はベルモント卿の令嬢であるジュリア・マンデヴィルとその親類のヘンリー(ハリー)・マンデヴィル。2人は恋に落ちるが、美しい女相続人であるジュリアにはわっさわっさとリッチな求婚者が現れる一方、ハリーは貧しいため、相思相愛なのに結婚できないと2人は悩んでいる。ハリーはいろいろ努力し、どうにか身分や財産を整えてジュリアに求婚し、なんとか2人は結婚できそうだということになるが、いろいろな行き違いやら勘違いやらが相次いでハリーはジュリアがメルヴィン卿と結婚することになったと勘違いし、メルヴィン卿と決闘で大けが。瀕死のハリーは自分がジュリアと結婚できることになっていたことを知ってから死んでしまう。ジュリアは傷心で衰弱し、死んでしまう。この2人の恋の道行きは主にジュリアの友人である若い寡婦アン・ウィルモットとその求婚者であるベルヴィルの往復書簡で語られるが、ジュリアやハリーの手紙もたまに入っている。

 書簡体の近代恋愛小説ではあるもののこの小説はシェイクスピアの『ロミオとジュリエット』の影響が非常に濃厚で、戯曲への言及もあるし、最初既婚女性に恋したハリーがジュリアに惚れて「今に比べればあんなの恋とはいえないようなものだった」的なことを言うのはロミオがロザラインからジュリエットに恋の対象を移し、より深い愛情を抱くようになるのに似ているし、手紙の未着のせいで決闘が起こったりするのも似ている。しかしナラティヴが私の苦手な18世紀の書簡体小説っぽいねじくれたアレなので、戯曲とは全然違う印象を受ける。

 この小説の特徴はまあとにかく金(+身分も)の話が多いということである。ハリーとジュリアが結婚できないのも金のせいだし、アンがベルヴィルの求婚を断ろうかと考えるのも、結婚のせいで双方の経済状況が苦しくなるのではという不安からである(このへん、私は18世紀の女性をめぐる財産法に詳しくないので寡婦産とか限嗣相続とか遺言執行とかがからんでくるとわからないところも結構あったのだが、たぶんオースティンの専門家とかに聞けばわかるのかな?)。舞い上がって恥ずかしくなるような手紙を友人に送りまくっているハリーとかは読んでいてあまり面白くないのだが、入り組んだ金の話題になると俄然社会的興味をかきたてられてしまう。金こそがドラマを作るのだ。