物まねショーとドキュメンタリー演劇の狭間で〜プリンス・オヴ・ウェールズ座『レット・イット・ビー』

 プリンス・オヴ・ウェールズ座でビートルズ50周年記念のショー『レット・イット・ビー』を見てきた。一言で言うと、キャンプになるにはシリアスすぎ、シリアスになるには祭りすぎる内容。

 とりあえず話はなく、四人の役者がビートルズの格好をして出て来てひたすらビートルズの曲を完コピーで演奏するというもので、それだけでは単なる物まねショーである。ところがこれ、たぶんドキュメンタリー演劇の影響を強く受けてて、一応ビートルズのキャリアから重要な瞬間を切り取ってきてそれを再現する、っていう方式にしている。各セグメントの前には「なんとかシアターのライヴです」みたいなアナウンスがある。舞台の両側にはでっかいテレビが設置され、そこに60年代の記録映像と新しく作って60年代風に加工した映像(役者四人がビートルズとして出演してて、モノクロで古めかしい質感にしてある)を組み合わせて編集したものを流し、60年代っぽい雰囲気を演出。ご丁寧に舞台で演奏してる四人の動きとビデオの動きをシンクロさせて生放送っぽくしたり、「これは何年の何のライヴなんだな」とかわかるようにしてある。台詞は客いじり以外一切なく、実際にあり得たライヴを再現…っていうことではまあかなり歴史ものを目指していると言える。このテレビの動きと舞台の動きがシンクロする演出は明らかに『抱きしめたい』の影響だと思うんだけど、ただ実際にビートルズが映らなくて不在の中心である『抱きしめたい』のほうが断然テクニックとしては面白いね↓(7:00くらいから)

 ところが、サージェント・ペパーあたりになるとこの演出がだいぶ怪しくなってくる。途端に違和感がものすごい。サージェント・ペパー以前のビートルズだともうものすごい数のライヴ映像が残っててそれを見てるもんだから「これはあれだな…」とかなんか記憶にあるものを再演している印象があるのだが、サージェント・ペパーの頃のビートルズはほとんどライヴやってなくて記録で残ってる映像がだいたいミュージックビデオになるから、純粋にうちらはこの頃のビートルズのライヴを見たことがない。存在しなかったものをドキュメンタリーっぽく作ってるってことでいわばオリジナルなきコピーであり、ボードリヤールとかまあどうでもいいんだけどとにかく何かが演劇的直観に反している(たぶん肉体的アウラが重要な舞台でオリジナルなきコピーとか無理)。まあたしかに「この頃のビートルズのライヴがあったらなぁ…」っていうファンのファンタジーを具現する企画ではあるのだが、このあたりから私は「なんかこれ見たことない」感が強くなってしまった。
 さらに、第二部の中盤になるといきなりフォークロック時代に戻ってしまい、ビートルズを演じる役者たちがバックでキーボードを演奏している人に感謝したりして「キャリアの重要な瞬間を振り返る」みたいな枠組みが崩壊してしまうのですごいヘン。ここだけ21世紀な感じ(そしてジョージがシタールを弾いてないのもちょっと)。さらにその後ルーフトップコンサートになっていきなり空気が60年代末になるので混乱する。

 と、いうことで、なんかイマイチコンセプトがはっきりしないショーだったなぁ、という印象。もっとがっつりドキュメンタリー再現舞台っぽくするか、あるいはキャンプな物まねショーに徹するか、どっちかにすべきだったんじゃないかと思う。

 まあ、結論としてビートルズのジュークボックスミュージカルなら『アクロス・ザ・ユニバース』を見たほうがずーっと面白いと思うよ。