小林恭子『英国メディア史』(中公選書、2011)

 小林恭子『英国メディア史』(中公選書、2011)を読んだ。

 非常に本格的な英国メディアの通史で、15世紀のキャクストンの印刷事業とか聖書の発行の話から書き起こし(このあたりは軽く触れる程度だけど)、18世紀に定期刊行物が多数発行されるようになってから現在に至るまでのメディアの歴史を集中的にカヴァーしている。一般書なのだがかなり包括的でレベル高いので、これ注とかいっぱいつけて学術書の体裁で出したほうがよかったのでは…と思ったりもするのだが、とりあえず英国史とか報道の歴史に興味ある人は手元に置いておいて損はない本だろうと思う(とくに私が非常に苦手としている18〜19世紀あたりの政治報道の話とか個人的にすごく役に立った)。歴史的なことばかりではなく、ここ数年大問題になってたニュース・オヴ・ザ・ワールドの盗聴スキャンダルなどについては非常に詳しく書いてあるので、最新の英国メディア事情を知りたい人にもおすすめの本である。

 ただ、かなり広い範囲の歴史をカヴァーしているため部分的にはしょったりしてわかりにくくなったりしているところもあるように思うので、そのへんは英語の史料とつきあわせて確認したほうがいいかも。例えば、17世紀のメディアを簡単に解説した箇所で「時の国王チャールズ一世の妻ヘンリエッタ・マリアは女優として芝居に出た経験を持っていた」とあるのだが(p. 36)、これ間違ってはいないんだけど、ヘンリエッタ・マリアが主に出てたのは宮廷仮面劇(マスク)っていう内輪な宮廷でやる豪華な舞踏劇みたいなやつで、今うちらが考える商業演劇の「女優」とはかなり違ったものである(台詞が少なく、歌や踊りが多かったりする)。