過小評価されたグラムを芸術史に位置づける〜テイトリヴァプール、「グラム!スタイルのパフォーマンス」展



 さてさて、実はロンドンには博論の口頭試問で行ったのだが、終わった後すぐロンドンを離れ、リヴァプールに行ってテイトリヴァプールで「グラム!スタイルのパフォーマンス」展(Glam! The Performance of Style)を見てきた。

 これは70年代ブリテングラムロックを音楽だけではなくもっと大きい芸術史全体のコンテクストに位置づけようというもの。グラムロックを担った人たちの大部分はアートスクールで教育を受けたことがあり、グラムは音楽だけではなく映画とか美術、ファッションなど幅広い芸術潮流であった。さらに、同性愛などセクシュアリティについて社会的に隠蔽されてきたことを臆せず表現する大胆さや、男性中心的なロックにキラキラしたキャンプな感覚を持ち込もうとする試み、固定されたものとしての自己イメージを問い直す変身への欲求というのはグラムの時代が終わった現代まで幅広い芸術分野に強い影響を及ぼしているものであるということを示している。この展覧会はこういうことを多数の絵画及び映像資料(前衛映画とか)を使って示している。

 まあこれはまさに私のための展覧会である。私が思うに、UKグラムはロックの歴史を考える中で最も過小評価されている音楽ジャンルだ。ロックの歴史を考える時、レッド・ツェッペリンあたりから一足とびにパンクになっちゃう人はたくさんいる。今の日本にいるヴィジュアル系バンドだってUKグラムの影響を受けているに違いないのだが、そういうことを全然考えない人だってたくさんいる。グラムを単にキンキンキラキラのキワモノだと思っている人だっている。このへんの過小評価には若干のホモフォビアアメリカ中心主義を感じることもあるので心が穏やかではないのだが、まあとにかくグラムは単なるロックの歴史に咲いた短命な花ではない。グラムは生き延びるための覚悟であり信念であり、マドンナもレディ・ガガセックス・ピストルズも全てはグラムから始まったはずだ。この展覧会を企画したチームもたぶんグラム再評価を目指していると思う。

 V&Aのデヴィッド・ボウイ展に比べるとこの展覧会はやや規模が小さいし、視覚有意で音楽そのものを聞かせるというよりはヴィジュアルアートをグラムの文脈に位置づけることに多大な労力を割いているのだが、これはグラムが芸術史上あまり正当な評価を受けてないことを考えると展示方針としてはありだと思う。例えばグラムは美術の分野ではジャン・アルプとかから強い影響を受けており、アンディ・ウォーホルやデイヴィッド・ホックニーはかなり明確に70年代はじめのグラムカルチャーの直接の起源になった人々として考えることができるし、またシンディ・シャーマンみたいなアーティストはグラムの影響なしではメジャーになれたかわからないような写真家だが、音楽的影響すら過小評価されがちなグラムについて、こういう所謂ハイ・アート的な美術の深い関係を見せるというのは意義のあることである。芸術の影響というのは測定がなかなか難しく(もちろんグラムをグラムだと思わないで取り入れた人もいただろうし、どこからある潮流がきたかとかそういうことが忘れられて継承されることもある)、芸術家同士の結びつき、とくにハイ・アートとポピュラーカルチャーの結びつきを緊密にマッピングするというのは難しいことでもあるのだが、この展覧会はけっこうそういうつながりを人脈とか作風でわかるように見せようとしていて努力していると思う。
 
 あと、展示ではデレク・ジャーマンの初期の前衛映画を上映したりしているのだが、なんか若い頃からジャーマンの視覚センスってひと味ちがうすごいところがあったんだなぁ…と思った。あまり好きにはなれないが、何かめちゃくちゃ個性的だ。なんかいろんなグラム関連資料をつぎはぎしたインスタレーションとかもあってそういうのはあまり関心しなかったのだが、70年代頃の珍しい映像作品などを一挙公開しているのはとても良い。

 カタログはこちら↓これもけっこういろんな資料が入っているので買いだと思う。

 あと、グラムについてはこれが基本書のひとつ。音楽ジャーナリストが一般向けに書いたものなのでかなりわかりやすい。