みなさんに取り組んでほしいことがあります〜Vera Keller, 'The "New Worlds of Sciences": The Temporality of the Research Agenda and the Unending Ambitions of Science'

Vera Keller, 'The "New Worlds of Sciences": The Temporality of the Research Agenda and the Unending Ambitions of Science', Isis 103 (2012): 727-34を読んだ。この論文は5/1にあるIsisリストマニア特集読書会で私が担当するものなので、一応当日のレジメの扱いである。



○論文の内容要約
1.フランシス・ベーコンの'Desiderata'(望まれるもの)
 『学問の進歩』ラテン語版の最後についている、まだ書かれていない章の一覧。
 これを公表することにより、ベーコンはリストにあるものがいろいろな人により実現されることを示唆した。
 'The New World of Sciences, or Desiderata'という野心的なタイトルがつけられており、ベーコンはここにあげられている形而上学的・論理学的な課題が実現されることで人間の知識に「根本的かつ根源的な変化」がもたらされることを望んでいた。
→しかしこのリストにあるものが完全に充足されることはなく、暫定的な課題をリストするという作業が終わることはなかったため、「終わりなき旅としての科学の発展」という考えが生まれるようになった。



2.ベーコンのリストとそれ以前のリストとの違い
 ベーコン以前のプリニウスなどは既に征服された分野を並べて記述していた。
→ローマで行われる実際の凱旋式プリニウスの自然の記述はともにローマの権力を示すもの
 (←レジメ作成者コメント:パフォーマンス、見世物としてのリスト、あるいはカタロゴス)
 ベーコンは実現されていない、これから征服されるべき分野についてリストを作った。
→いくつもの国々が競う時代の英国という時代環境、未知の海にゴールを求めて航海していくこと
 Desiderate list (まだ存在していないもののリスト) vs Empirical list (過去及び現在あるものを集めてきたリスト)
  Desiderataの実現のため、中に含まれるひとつひとつに各人が貢献する。
  正確さに重きを置くempirical listに比べるとdesiderataは人間の可能性の限界を探求することに重きを置いているため、実現が疑わしいものも入ったりする。
 


3.Desiderataの不確実な実現可能性
 ロバート・ボイルのウィッシュリスト…人間が現実にできる限界を知る能力に関する懐疑の道具であり、リストにあることが確かにできるということを示すものではない。
 ウィッシュリストを共有し、そこにある実現できるかわからないことにも取り組む。
→もしある人がそれについて成果を出せなくても、権威のある者が作ったdesiderataに含まれていることをやったということで探求が正当化できる。
ライブニッツ…既にわかっていることをリストすることで、ある分野にだけリソースを注ぎすぎることを避けて新しい領域への探求を広げていることができる。



4.Desiderataの変貌
 Biological desiderata…人間の協力ではなく遺伝コードにより実現される(ドーキンズ)




○レジメ作成者の疑問:
結論に'For Bacon, a new world lay at the end of the journey.'(p. 734)とあるが、ベーコンの時点で「学問の旅に終わりがある」という意識があったということをこの著者は言いたいのか?そしてその議論は妥当なのか?
←A new worldが終わりである、という表現に若干の矛盾を感じる。Newであるものは知られざるものであり、new worldに到達することで一段落はしたとしてもその後さらなる探求を必要とするのでは?



○レジメ作成者のコメント:
文芸作品のcanonisationと学術トピックのjustification
'I suppose the literary canon is, in no very grand sense, the commonplace book of our shared culture, in which we have written down the texts and the titles that we want to remember, that had some special meaning for us'(Henry Louis Gates, Loose Canons: Notes on the Culture Wars, p. 21)
 既に存在しており、今後研究するべき文学作品をリストするcanon formationと、まだ存在しておらず、今後研究するべき学術トピックをリストするdesiderata
→方向性は違うが、どちらも「やってほしいこと」をある文化集団で共有されるコモンプレイスブックに登録して権威付けをする行為



○レジメ作成者の余談:
 本論文の著者ヴェラ・ケラーはTransformative Works and Cultures 7 (2011)に'The "Lover" and Early Modern Fandom'(論文はこちら)を寄稿しており、この論文は初期近代のファンダムに関する研究である。




○その他
 Isisの他の論文については既に有賀さんとにくさんがレジメを作成されている。
オシテオサレテ:「リストマニアの世界 Delbourgo and Müller-Wille, "Introduction, Focus: Listmania"
有賀暢迪@リサーチマップ:「人物をリスト化するという行為の意味 James Delbourgo, "Listing people," Isis, vol. 103 (2012), pp. 735-742.