詰め込みすぎでは?佐伯順子『「女装と男装」の文化史』

 佐伯順子「女装と男装」の文化史』(講談社、20090)を読んだ。

 日本と英語圏を中心にいろいろな文学・漫画・舞台芸術・映画などに登場する女装・男装の使用とその意味合いを比較検討するというもので、各論ひとつひとつは非常に面白く、いくつか選んですぐ学部の授業で使用できそうな良い感じの批評になっている…のだが、全体を見てみると「どうしてこの作品をとりあげたの?」「なんでこの作品がないの?」「ちょっといろいろとりあげすぎじゃない?」という感じがして、「文化史」と銘打っているわりには散漫というか詰め込みすぎな感じがあるのが残念だった。とくに『ビリー・エリオット』や『ヴェニスの商人』とか、他の作品に比べると異性装が全体のあらすじに占める割合が低いのでこの文脈でとりあげる必要あったのかな…それに日本と英語圏をごっそり詰め込んでいる割には他の文化圏の異性装について言及が少なく、『ビリー・エリオット』とかをとりあげるなら、オペラのズボン役とかあるいはバルザックの『サラジーヌ』みたいなフランス文学、越劇、あるいは東アジア、南アジアやネイティヴアメリカン文化における異性装(ウェーワとか)なんかをとりあげたほうがより「文化史」らしくなるだろうに、と思った。使える言語や分野の関係でそこまでできないということならもうちょっとタイトルやコンセプトを変えるとかしたほうがよかったのかも。