『インポッシブル』〜よくできた非ハリウッド災害映画、ただし…

 スマトラ島の大津波を題材にした実話をもとにした映画『インポッシブル』を見てきた。あらすじとしては、休暇でタイに来ていた英国人の夫婦と三人の息子が津波で離ればなれになり、かなりの恐怖体験をしケガもしながら最後は再会する、というわりあい単純なもの。


 とりあえず役者陣の演技が実に達者で、これだけでも見る価値はある。ナオミ・ワッツユアン・マクレガーが夫婦なのだが、ナオミ・ワッツのある時は強く、またある時は脆い複雑な感じといい、若干ホラーがかった病気演技といい実に説得力があるし、ユアン・マクレガーもなんか間違ってるんじゃないかと思いつつどうしても家族を探しに行ってしまうお父さんで、実家に電話するところの突然泣き出す演技とかはリアルで素晴らしい。子役も皆上手で、とくにほとんど出ずっぱりの上の息子ルーカス役のトム・ホランドはほんとに上手だ。

 全体的にこの映画はスペイン映画でもともとホラーをとってた監督の新作だそうで、英語を使ってはいるものの災害映画のわりに役者の演技をじっくり見せる構成になっていたりして、話も演出スタイルもそんなにハリウッドの災害映画っぽくない。まず、設定ではワッツとマクレガーは日本に住んでる英国系の夫婦で、その点「アメリカ人が世界で迷惑を…」的なイメージがなく感情移入しやすい。それから編集の仕方とかもかなりゆっくりめな感じで二つの話をめまぐるしい切り返しで並行して…みたいな小細工をあまりやらず、ワッツのストーリーラインを結構丁寧に見せてからマクレガーへ移動…みたいな語り口になっている。あとスペインホラーを思わせる演出がけっこうあり、唐突にPOVショットが入ったり、ナオミ・ワッツがいきなり嘔吐したり、母親のすんごいグロいケガを見て息子ルーカスが「ごめんもう無理」と行ったり、またまた最後の手術をうけるワッツが見るフラッシュバックの気持ち悪さとかも含めて、かなり非ハリウッドホラー的な演出が多いと思った。

 と、いうことで、全体的にはかなり面白かったのだが、やはり現地のタイの人たちの出番がかなり少ないこと(観光客が行く先で災害にあう、という話が面白いのはわかるがもうちょっと工夫できたのでは)、もともとスペインの家族が主人公の話をたぶん興行収入を狙って英国人の夫婦に変えたこと、災害時に英語が通じない描写がわりとぬるいことなど、ちょっとどうかなぁと思うポイントもたくさんある。とくに変だったのは唐突に出てくる『ティファニーで朝食を』オマージュなのだが、あのユアン・マクレガー(日本で働いてる)が突然「ユニオシ」の話をする場面はどういう意味が…?あと、最初の飛行機の場面でチューリッヒ旅行保険の封筒がうつって最後にチューリッヒ旅行保険の人たちが一家をシンガポールに移送してくれる場面で映画が終わるのだが、あれはプロダクトプレイスメントだよね?