宝塚初ライヴ鑑賞〜星組『ロミオとジュリエット』

 宝塚を初めて生の舞台で見に行ってきた。星組の『ロミオとジュリエット』である。劇場の前に並んでいる人たちとかお客さんもいつもと雰囲気が違ってちょっとびくびくしていたのだが、テレビで見るより断然生の舞台のほうが全体をゆっくり見渡せるぶん見やすく、思ったほど入りにくいものではなかったのでとりあえずよかった。

 とりあえずストーリーラインはシェイクスピアの『ロミオとジュリエット』に沿っているのだが、細部にたくさんの変更がある。今後のためにメモしておこうと思う。

・キャピュレット一族が借金を背負っており、そのためキャピュレット夫妻は娘を富豪のパリスと結婚させたいということになっている→原作にはそういう描写ないので、たぶん金目当ての結婚がひどい!ということを強調するための変更。
・キャピュレット氏は家庭を顧みない悪い夫で、それにほとんど愛想をつかしているキャピュレット夫人は甥のティボルトに異常なまでに愛情を注いでいる→原作のキャピュレット夫妻については、怒りんぼであるとかそういうちょっとした性格描写以外、以外そこまで夫婦仲についての描写はたくさんあるわけではない。
・ティボルトはプレイボーイだが実はジュリエットを愛しており、パリスにもロミオにも強く嫉妬している。→原作でもティボルトとジュリエットは仲良しだがそういう関係ではない。後で起こるいざこざをわかりやすくするための変更か?
・ロミオはモテモテ野郎だが、原作みたいにロザラインに惚れているわけではなく、ヴェローナ中の女を振っているらしい。
・『オセロー』や『マクベス』からの台詞が取り入れられている一方、『ロミオとジュリエット』の台詞をそんなにたくさん残しているわけではない。
ロミオとジュリエットの秘密結婚はヴェローナ中でウワサになっており、ティボルトがモンタギュー一族の者を襲うのもジュリエットへの愛ゆえに強い嫉妬にかられたから→原作では二人の結婚は完全に秘密にされている。
・ロミオにジュリエットの早とちり訃報を伝えるのがベンヴォーリオ→原作ではバルサザー
ロミオとジュリエットが死ぬ場面で、ロレンス修道士様が途中でいっぺん入っていくる場面がない→これは長い芝居をカットする方法としては成功している気がした。

 歌も踊りもかなりちゃんとしたミュージカルで、ちゃんとしすぎていてあまり私の趣味ではないかも…それにさすがに「清く正しく美しく」で品が良いのでそこもちょっと。あと、これは完全に初心者としての希望なのだが、字幕があったほうがいいと思う。発声じゃなく独特の節回しに慣れてないのとあと箱自体の音響の問題だと思うのだが、とくに舞台の奥のほうで歌われる歌唱の場合、歌詞が結構聴き取りづらかった。外国の方もたくさん来るのだろうから字幕はあってもいいのでは…

 全体的には、かなりでかい中世の建物風な回転するセットを使用しているのに非常に場面転換がなめらかかつ迅速で、そのおかげでわりと独唱やデュエットが多いのにテンポが良く感じられる。台本のほうも、長い芝居をうまいことカットしていてこれは上手だなと思った。前半、ロミオが突然「僕は怖い」という歌を歌うところだけちょっと唐突で話の流れが止まっているように思えたのだが、後半でこの歌が再び出てきて「ああ、ここで効くことになっていたのか」とかいうことがわかったりとか、歌の構成も工夫していると思う。キャピュレットとモンタギューを赤と青で分けた衣装デザインとかも視覚的にわかりやすく効果的だ。パフォーマーの歌や踊りはもちろん、こういう舞台装置や衣装まできちんと目配りしてあってそこはさすがにすごいなと思った。男役も皆カッコよくて、私はハマらないがこういうのにハマる人がたくさんいるのはわかる。ロミオ役の柚希礼音は声が低くてセクシーで、思ったよりかなり「男声」だったのでそれはちょっとびっくりした(もともと歌を習った経験がなかったらしいのだが、なんかちょっと他の歌手と違ってナチュラルな感じだったのはそういうことなのかな?)。

 ただ何点か疑問もある。原作からの変更については、変えたせいでずいぶんメロドラマ的になっているなぁと思ったがまあそれは宝塚だからしょうがないんだろうと思う(←下でご指摘あったとおり、フランス語の原作でも同じような感じだそうなので、もともとの台本がメロドラマっぽいみたい)…んだけど、ロミオとジュリエットが出てくる場面に陰みたいにアレゴリー的な愛とか死とかを表現するダンサーが出てくるのはどうかなぁと思った。去年イングリッシュナショナルオペラで見た『ジュリアス・シーザー』でも思ったのだが、ちゃんと歌とかがこなせる主演がいるのにその後ろでアレゴリーっぽい人たちがなんかダンスするとか、私にはちっとも効果をあげているようには思えないのだが…主演の存在感がこんだけあるところで後ろでアレゴリーダンスとかはっきり言って邪魔な気がする。

 最後にレビューショーがあったのはちょっとびっくりしたのだが、むしろこっちのほうがキャンプな感じで私の趣味だったかも…女性役のダンサーは露出度高いし男役もピカピカの服を着たり背負い羽根をつけたりすごく派手で、バーレスクっぽかった。背負い羽根って初めて生で見たと思うのだが、あれはバーレスクでもどんどん使ったらいいかも。

 ちなみに、休憩時間に女子トイレにものすごい列ができていたのはびっくり。文化村で小栗旬成宮寛貴の『お気に召すまま』を観た時もすごかったが、宝塚劇場では毎回こんな列ができるんだろうなぁ…