パノラマ館からDVDまで映画受容の歴史をたどる〜加藤幹郎『映画館と観客の文化史』

 加藤幹郎『映画館と観客の文化史』(中公新書、2006)を読んだ。

映画館と観客の文化史 (中公新書)
加藤 幹郎
中央公論新社
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 パノラマ館からDVDまで、映画受容の歴史を観客論の視点から解説したもので、新書サイズだがかなり充実しており、大変面白い映画史の本である。どこでどうやってお客さんは映画を見てきたのか、ということにひたすら注目しているという点で、これは映画ファンにとっては「我々の歴史」に関する本であり、自分たちの前史の本としてかなり身近に引きつけて読むことができるのでワクワクする(…舞台のほうは仕事になってしまっているのでなかなか観客の歴史の本を読んでもワクワクできないところがあるのだが、映画は趣味なのでワクワクできる!)。ドライブインシアターがどうやって音響の問題と格闘してきたかとか、実はホームシアターというのは1912年に既にあった発想だとか、どの話も興味深い。

 欲を言えばアメリカと日本が主でヨーロッパとかインドとかが手薄なのはちょっと寂しいのだが、そのへん補充できるいい本はないのかな…と思った。あと一カ所えっと思ったのが「映画館の暗闇のなかで生まれてはじめて痴漢に遭遇したとしても、そうした痴漢を撲滅したのちには、そのくらいのトラウマ[精神的外傷]は人生において克服せねばならぬ災難のひとつであろう」(p. 281)っていうところ。これ何が言いたいんだ…?痴漢を撲滅したら痴漢はいなくなるから映画館で「生まれてはじめて痴漢に遭遇」することなんかなくなるよね?この本は面白いのだがたまにこういう何を言いたいのかよくわからない晦渋な言い回しが突然あるところもあるのでそれはちょっと不満がある。