いろいろな意味でジャガーノート・シップなリブート版スター・トレック〜『スター・トレック イントゥ・ダークネス』

 『スター・トレック イントゥ・ダークネス』を見てきた。

 SFものとして面白かったし、いろいろ政治的な意味合いもあり、あとうちみたいにもともと全然スター・トレックを見てない(根っからの『スター・ウォーズ』派でしてな)人でも楽しめるという点でとても良かったと思うのだが、もうそのへんについてはオリジナルテレビシリーズからしっかり追っている人たちがちゃんとレビューを書いているのでやめておいて、うちはまああまりみんなが書きたがらないかもしれない、いかにこの作品がSlashy(スラッシュ…日本語の「やおい」に非常に近いが完全に一致するわけではないと思う)だったかということについて若干のコメントを…

 皆様ご存じのとおり、カーク/スポックは'the first officially slashed couple of media fandom'「メディアファンダムにおいて最初におおっぴらにスラッシュカップルにされた」二人である。ジェダイを目指して日々鍛錬している私がスター・トレックをちゃんと見ないといけないと思ったのも、英語圏のファンダム研究、とくにスラッシュ研究ではものすごく頻繁に『スター・トレック』が出てくるからちょっとだけでも見ておかないと…と思ったというのがある。ちなみに『スター・トレック』のスラッシュ研究としては下の二冊が有名で、私はポストモダン系で若干強引なところもある『NASA/トレック』よりももうちょっとがっちした調査に基づいたCamille Bacon-SmithのEnterprising Women: Television Fandom and the Creation of Popular Mythのほうがいい本だと思うのだが、なぜか前者しか邦訳されていない。


NASA/トレック―女が宇宙を書きかえる
コンスタンス ペンリー
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Enterprising Women: Television Fandom and the Creation of Popular Myth (Contemporary Ethnography)
Camille Bacon-Smith
Univ of Pennsylvania Pr
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 で、スター・トレックシリーズではカーク/スポックが所謂ジャガーノート・シップ(あるファンダムで圧倒的に優位なシップ。shipはrelationshipの略で、日本語でいうところのカップリングに近い)だったのだが、噂によると2009年にリブート版が出て以降、カーク/スポックのシップの優位がオリジナルシリーズほどじゃなくなったらしい(もちろんリブート版以降もカーク/スポックがメインのシップではあるのだが)。これはどうしたことかと思い、私は「この中でいくつシップが作れるか?」を念頭(いやな念頭だな)に置いて『スター・トレック イントゥ・ダークネス』を見たのだが、まあさもありなんという感じだった。小さい場面から広げて無限にスラッシュのシップを作れそうな感じになっている。

・とりあえずカーク/スポックは盤石な感じで、カークとスポックの間にウォレスが割り込んできたらスポックがなんとなく不愉快になるところ(非論理的ですな!)とかはおそらく作る側もそれを狙って作ってるんだろうと思う。
・前作(最近DVDで見た)からしてカーク/マッコイはあるだろうと思ったのだが、今回も医者のマッコイがいやがるカークを無理矢理検査したりしていてまるでラブコメみたいな展開なのであれもまああるだろうなと…
クリス・パインベネディクト・カンバーバッチはまあ二人とも単体でめちゃめちゃ人気があるので絶対あると思ったら既にカーク/カーンにはKhirkというシップ名がつけられてるらしい。ちなみにクリス・パインのファンはPine nuts(パインの名前に「松の実」とnut=熱狂的な愛好家をひっかけている)、カンバーバッチのファンはCumberbitch(名前にbitch「いけすかない女」をひっかけている)などとフザけて呼ばれる(自称含む)ことがある。
スールー/チェコフは若くてキュートなのでまああるなと思ったらやはり活動的なファンダムがあるらしい。しかしスールーはアジア人でチェコフはロシア訛りがひどいインターレイシャルなシップだというのは重要だと思う。スラッシュの人気シップって白人男性が圧倒的に多いらしいし。
・個人的にはクビにされたスコッティがカークに謝られ仕事を頼まれた時に「あんなヤツの頼みきくわけない!」といいつつすぐに調査に向かってしまうところでカーク/スコッティはあると思ったのだが、なくはないけどあまり盛り上がってはいないっぽい…
・これまた個人的には船長代理になったスールーが相手の船を脅しあげたところにマッコイが'Remind me never to piss you off.'「君を絶対怒らせないほうがよさそうだな」っていう場面でスールー/マッコイあるなと思ったんだが、同じこと考えてるヤツはいっぱいいるっぽいけどあまり画像とかは出回ってない感じ。

 と、いうことで、私が思いつくだけでこんだけシップが作れたので、まあこれではカーク/スポックがジャガーノート・シップにならないのも無理ないかと…しかしながらこれは全体的にきちんとした群像劇になるよう役者ひとりひとりのキャラクターと役者同士のアンサンブルを大切にしているっていう演出の工夫のたまものだと思うので、たぶんたくさんシップが作れるということと映画自体がバランスのとれた面白い群像劇だということは深く関わっているだろうと思う。