ヤれば解決ということでいいのか。本当か〜『アップサイド・ダウン 重力の恋人』(ネタバレあり、また下品なタイトルについてお詫びします)

 『アップサイド・ダウン 重力の恋人』を見てきた。

 発想はすごく面白い。舞台は向かい合ったようになっている双子惑星で、ここでは上下方向に重力が働いている。つまり、上(位置は相対的なので別にどっちが上でもいいのだが、便宜的に上とする)の惑星には上流階級が、下の惑星には下層階級が住んでおり、それぞれの惑星の地面方向、つまり上下方向に重力が働いている。上の惑星に由来する物質は上向きの、下の惑星に由来する物質には下向きの重力が働く。つまり上流階級の人は天井側、下層階級の人は床側を歩いており、どこに行っても自分の生まれた土地の重力に支配されるので向かいの惑星に出かけることは非常に難しい。上層惑星は下層惑星の資源を搾取して栄えているが、下層惑星は上層惑星からエネルギーを盗んだりして貧しい暮らしをしている。二つの惑星間での交流は禁じられているが、トランスワールドという企業だけがこの二つの惑星をつないでおり、絶大な力を持っている。

 下層惑星の孤児アダム(ジム・スタージェス)は高山地帯で上層惑星に住むリッチなエデン(キルステン・ダンスト)と出会い、恋に落ちるが、バレてつかまり、そのときの事故でエデンは記憶喪失に。十年後、ひょんなことからアダムはエデンがまだ生きていることを知り、自分の抗引力研究をネタにトランスワールド社に就職してエデンに近づく。四苦八苦して上層惑星に忍び込み、エデンの記憶を取り戻させることに成功したアダムだが、二人の恋は再びバレて引き裂かれる。しかし愛し合う恋人たちを引き裂くことは不可能なのであった…ということで、知人の助けもあって二人は再び結ばれる。


 とにかく上下方向に重力が働く場面のヴィジュアルはとても綺麗である。逆巻く雲の中上側に降る雨とか、床と天井両方にデスクがあるトランスワールドのオフィスとか、見た目はとにかく面白い。雄大な自然の中、キルステン・ダンストジム・スタージェスが上下に働く重力に引き裂かれながら空中で抱き合ってるとか相当視覚的においしい。生まれながらに階級が固定されてしまって這い上がれないという社会を表現している点では現代の格差社会の諷刺でもある。主役のカップルだけじゃなく、上層惑星出身のアダムのひょうきんな同僚ボブを演じるティモシー・スポールなんかもとても芸達者だ。こんだけきれいな映像の中でキュートなカップルと面白いおっさんが動き回っているのを見るだけでもお金を払う価値はあるかもしれない。

 …しかしながら恋愛ものとしてもSFファンタジーとしても話のほうのツッコミどころが多すぎて、せっかくの設定が全然生きていない。重力が上下方向に働く基本的な仕組みとかアダムが開発するピンクのパウダーの秘密とかはつっこまないでおくとしても、上層惑星にあるカフェ・ドス・ムンドスはなんで天井にも床にも人がいるのかとか(上層惑星の人しかいないだろうになんで双方向に重力が?)、細かいところで???というところがたくさんある。何か説明があるんだと思うが、見た目のおもしろさを重視するあまり細かい設定の説明をすっとばしていてツッコミどころがかなり増えている感じ。

 さらに一番白けるのはオチで、引き裂かれる前にこっそりアダムとセックスしていたエデンが双子を妊娠し、体質の変化で重力に適応しました、って、いう終わり方。まずそんなに早く妊娠がわかるもんかとか医者に行った気配もないのになんで双子だってわかったんだよとかいうツッコミが口まであがりかけてくる一方で、女の妊娠をそんなネタに使うなよ…というがっかり感が溢れてくる。こんだけ引き裂かれた二つの世界を乗り越えるのに必要なのが愛とセックスと母性かよ!!結局ヤればいいのかよ!と絶望して映画館を出てきた。最後のアダムのセリフによるとこの二人のおかげでやがて歴史が変わることになったらしいのだが、そうかイケメンとキュートな女子がやったおかげで歴史が変わるのか。母親になったら全部解決か。それはよかったね!!!