『ロミオとジュリエット』のけっこうしっかりしたゾンビ版翻案〜『ウォーム・ボディーズ』(少しネタバレあり)

 『ウォーム・ボディーズ』を見てきた。

 もう最近は古典をゾンビ化するのが大流行しており(すでに以前書いたように古典をゾンビものにするっていうのは1940年代からあるのだが)、オースティンの『高慢と偏見』やらイオネスコの『』やらもゾンビものになっているのだが、『ウォーム・ボディーズ』も『ロミオとジュリエット』にけっこう基づいたゾンビものである。原作に沿っているという点では『ハイスクール・ミュージカル』とかよりも断然細かくやってると思うし、なんといっても普通にロマンティックコメディとしてきちんと作っているので、単に「発想だけで古典をゾンビにしました」ではなくしっかりした恋愛ものだという印象を受ける()。

 なんといっても主人公はゾンビ青年R(ニコラス・ホルト)と人間の女ジュリーで、名前からしてRomeo & Julietだ。さらにオチはRが名を捨てて恋をとるというもので、おそらくは『ロミオとジュリエット』でジュリエットが言うひとりごと「名前を捨ててね」にひっかけており、ゾンビが恋で人間に戻るというロマンティックがとまらない設定も含めて、恋により人は名を含めた様々なものを捨て、偏見などを捨てて新しい人間になるのだ、というモチーフがけっこう全面に出ている。さらにちゃんとバルコニーのシーンもあるし、プールでのラブシーンはバズ・ラーマン版『ロミオ&ジュリエット』を参考にしているはずである。シェイクスピアリアンや芝居好きには必見の翻案だ。

 話はかなりツッコミどころが多く、Rが急に人間に戻りすぎだとか、人間にゾンビのふりをさせるためのしかけが安易すぎるとか、捜索隊は車か少なくとも家畜にひかせた車を使用しろよ、とか、見ている間細かく突っ込んでいたのだが、かなりユーモアがあって笑えるし、ニコラス・ホルトほか役者が頑張っているし、話がゾンビものにしてはやたら理想主義的というか明るいメッセージに富んでいるので大変楽しく見ることができた。ただ、あの「人間とゾンビが協力してガイコツを倒す」っていうのはけっこうアメリカ的発想だよねぇ…あれ、下手するとかなり恋愛至上主義的というか「恋ができない者を放逐する」っていう意味に読めると思うし、またまたもう少し政治的文脈で読むと、マジョリティとマイノリティは協力できるが理想的な社会には原理主義者とか寛容を知らない者の居場所はないのでそういうものが共通の敵だ、という意味なんだろうと思う(今のアメリカ政治の状況と、これがゾンビ映画だっていうことを考えると後者のメッセージが強そうだ。「かわいそうだけどガイコツは救えなかった」みたいな台詞があったし)。

まあしかし全体としてはスウィートな映画だし、ニコラス・ホルトがロミオ役というだけで見る価値あると思う。というかニコラス・ホルトの素で人間離れした感じがすごくこの映画にあっている。そのうちニコラス・ホルト主演で原作に近い詩の台詞がある『ロミオとジュリエット』を誰か撮ってくれないかなー。

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