歴史的に正しい『ジャンゴ』〜『42 〜世界を変えた男〜』

 『42 〜世界を変えた男〜』を見てきた。

 42というのは「人生、宇宙、全ての答え」なのかと思ったら、アフリカンアメリカンとして始めてメジャーリーグの選手となったジャッキー・ロビンソンの背番号だそうで、これはジャッキー・ロビンソンメジャーリーグに入団した前後を描く時代ものである。ジャッキーはひどい人種差別を受けるのだが、ブルックリン・ドジャースで素晴らしい成績をおさめてメジャーリーガーとして成功する。

 で、これ、一言で言うと「まじめな『ジャンゴ』」だと思う。ジャッキーもジャンゴも差別に対するものすごい怒りを抱えているのだが、普段は無口でストイックな不屈の闘志を持ったアフリカンの若者で、これをしゃべりが上手でキャラの濃い白人のオッサンが引き立てて支える。オッサンは怒りに満ちた若者に「とりあえず人前で怒りを爆発させるべきでない時は我慢して紳士を演じろ」みたいなことを教える。パラレル歴史記述で開き直りまくった『ジャンゴ』に比べると『42』はとてもきちんとした映画で時代考証なんかもかなりちゃんとしているのだが、構図がそっくりだと思う。これ、今のアメリカ映画ではこういうのが流行ってるんだろうか…?昔はアフリカンアメリカンというとクリス・ロックみたいによくしゃべる面白いヤツがよく映画に出てたと思うのだが、最近はそういうののステレオタイプ化を避けて無口なキャラを前面に押し出すのが人気なのかな?しかしながら闘志を持った若者を導く「老師」の役は白人のオッサンなんだねぇ…

 あと、もうひとつ『ジャンゴ』と趣味が共通してるかもと思った点で、すごくきちっと作った映画なのにジョークの笑いどころがやたらオフビートなことがある。例えばジャッキーが脅迫を受けて秘密裏に移動させられるところで、周りの人は身の安全を心配している一方でよく事情もわからないまま車に乗せられたジャッキーはクビの宣告ではないかと心配している、とか、向こうから白人が厳しい顔で近づいてきて何かのいちゃもんか…とジャッキー夫妻が身構えたらいきなり励ましを受けて拍子抜けする、とか、遠慮してドジャースの白人選手とシャワーを一緒に使わないジャッキーに他の仲間が「お前もシャワー一緒に入れよー」としつこく誘うのだがふっと「あ、いや二人で入ろうっていう意味じゃないよ!!」と断るところとか、笑うところのセンスがあまりウェルメイドな歴史物っていう感じではなく、期待させたり緊張させて思いっきり外すみたいな作りになっている。これは監督の趣味なのかな?

 キャストに関してはジャッキー以外のチームメイトのキャラがあまりたってないところは気になったのだが、ジャッキーを抜擢して守る「老師」ブランチ役のハリソン・フォードは本当にフォードなのかと思うほど表情も身のこなしもいつもと変わっており、ものすごく上手でびっくりした。あと、なんかキャストが『グレイズ・アナトミー』っぽい…ブランチの助手のハロルド役は『グレイズ・アナトミー』のジョージ役のT・R・ナイトだし、少しだけ出てくるジャッキーの支援者ブロック役は外科部長役のジェームズ・ピッケンズだ。『グレイズ・アナトミー』で、バーク先生役であるアフリカンのイザイア・ワシントンがゲイのT・R・ナイトをいじめてクビになったことを考えると、形は変わって差別に基づく弱い者いじめはあるなぁと…