踊り手はハゲていてもクリシュナだ〜シルヴィ・ギエム&アクラム・カーン・カンパニー『聖なる怪物たち』

 シルヴィ・ギエム&アクラム・カーン・カンパニー『聖なる怪物たち』を見てきた。セットはシンプルな後方の壁だけ、楽隊を舞台に上げ、音楽にあわせてシルヴィ・ギエムとアクラム・カーンがモノローグや会話も取り入れながら踊るという演目である。

 こういうダンス演目はあまり見たことがないので結構難しかったのだが、たしかにダンサーというのは怪物というか化け物なのかもしれない、という気はした。途中でアクラム・カーンが「自分はハゲてるのに若々しく美しいクリシュナの役を踊らないといけないことになった。そこで皆がクリシュナだと思うようなものじゃなく、自分がクリシュナだと思うものを踊ろうとしたところ怪物にたどり着いた」というようなことを言うのだが、ここでは神と怪物というのは非常に近いものとしてとらえられている。そこでカーンはハゲのまんま自分がクリシュナと思うものを踊るわけだが、どういうわけだか見ているほうもそれがだんだんクリシュナとか怪物であるように見えてくる。何もないところにイリュージョンが生まれるわけで、まったくダンサーは変化の生き物だ。

 また、二人ともダンスはとてもキレイなのだが、注意深く見比べると動きにそれぞれのもとのジャンルに起因するのであろう違いがあるのがわかって面白かった。ギエムがバレエ、カーンが南アジアの伝統舞踊であるカタックのダンサーなのだが、一緒にくるくる回るところとかは見た目にかなりの違いがある。二人が一緒に踊るところはまるで異種格闘技の対決みたいでとても緊張感がある。