スコットランドで上演せよ!〜シアターコクーン『マクベス』

 シアターコクーン長塚圭史演出、堤真一常盤貴子主演の『マクベス』を見てきた。全体的に演出は非常に良かった。

 六角形の舞台を劇場の真ん中に置いていろんな方向から役者が見えるようにするというのはこの間見たジェームズ・マカヴォイ主演の『マクベス』にも似ているが、突き放すような冷たさと荒々しさがあったマカヴォイ版に比べるとこの演出はかなり見世物小屋ふうで客いじりが激しい。最初に口上があって客席に座っている魔女が口上に文句をつけるとか(『ぴかぴかすりこぎ団の騎士』みたいだった)、バーナムの森が動く場面で客に緑の傘を持たせて客を兵士に見立てるとか、客を舞台に取り込む方針がかなり強かったので、役者と客だけじゃなく客同士も向かいあう形になるこの舞台設営は非常に生きていると思った。

 演出は日本のシェイクスピアにしては非常に政治的である。マクベスが支配するスコットランドは暴君の独裁に抑えつけられた暗い国になっており、自由を失った故郷の様子をイングランドの宮廷で悲しむスコットランド人たちの嘆きの場はとくに印象的だ。一方でマクベスに対抗するマルカムもあんまり信用できそうな感じではなく、最後に王になったマルカムがマイクで台詞を言いながらマクベスのでっかい首をお客さんに持たせてウェーブみたいに回覧(?!)する場面は非常にポピュリスト的だ。独裁が終わってポピュリズムになるとか実にスコットランドの未来は悲惨である。ちょうど独立を問う国民投票のためのロードマップが発表された現代スコットランドの情勢を鑑みると、これをスコットランドでやったら相当現地の人は喜んだり怒ったり、かなりいい反応が引き出せるのではと思った。

 と、いうわけで、演出はすごく面白くて最後まで目が離せなかったのだが、役者の台詞回しと衣装にちょっと疑問が…堤真一マクベスをかなり軽薄そうなタイプに作っていてそれはよかったのだが、台詞が早い、というか台詞が多すぎてうまく回せてないような印象を受けた。もっとキャラにあわせて台詞をカットするか、ゆっくりかみしめて台詞を言う場面を増やしたほうがよかったのではないかと思う。トゥモロー・スピーチなんかは比較的落ち着いていて良かったと思うので、ああいう台詞回しをもっとやってほしかった。マクベス夫人役の常盤貴子も台詞回しの滑舌に若干問題があった気がする。あと、常盤貴子については衣装もちょっとひっかかった。周りの男性陣の衣装はかなりモダナイズされてるのにマクベス夫人の衣装は袖だけけっこうひらひらしてたりスカートも裾が長く、常盤貴子には似合うのかもしれないが、周り衣装の時代感との釣り合いやマクベス夫人の行動的なキャラクターとはちょっと違うのではという気がした。

 とはいえ、実に政治的でエキサイティングな演出なので、とてもおススメである。好き嫌いはあると思うが…