フェミニストっぽい映画を作ろうとして失敗したロマコメ〜『ドン・ジョン』

 ジョゼフ・ゴードン=レヴィットの初監督作『ドン・ジョン』を見た。オンラインポルノ中毒の現代のドン・ファンことジョン(イタリア系のカトリックの青年)が真実の愛を見つけるまでの遍歴…といえばいいのかな?


 …これ、明確にフェミニスト的意図を持って作られた映画だそうで、ポルノグラフィの扱い方とかドン・ファンの再解釈とか、見ていると「たぶんフェミニストっぽい発想で作ろうとしたんだろうな…」とわかるのだが、決定的に失敗してると思う。そりゃそこらのロマコメ(ジャド・アパトーとか?)に比べりゃフェミニスト的かもしれんが、あのセクシーで頭もいいジョゼフがフェミニスト映画を作りますって言ってでてきたのがこれかぁ…という期待外れ感が大きい。

 期待外れだったという人は私以外にも結構いるようなのだが、一番私が引っかかったのは、スカーレット・ジョハンソンの役にものすごいミソジニーを感じたということである。上のリンク先でも「女はスカジョが嫌いだ」と言われてて、私はそれはちょっと言い過ぎだと思うのだが(別に『ママの遺したラヴソング』のヒロインとか『アヴェンジャーズ』のブラックウィドーとかは私は好きなのでジョハンソンがああいう役ばっかりやるならいいと思うよ)、まあたしかに「なんか同性にとってムカつく」女の役が多いっていうのはあるだろうと思う(『それでも恋するバルセロナ』のアメリカ女とか、ほんと見ていてアメリカ人はヨーロッパに来るな!とか暴言を吐きたくなるレベルだよね…いや吐かないけどさ…ちなみに『ブーリン家の姉妹』の感想を女性同士で話し合った時、ジョハンソンよりもナタリー・ポートマンのほうがはるかに色気も演技も上回りすぎててヤバいという感想を述べた女性が多かったな)。で、今回のジョハンソンが演じるヒロインのバーバラもなんか明白に同性に嫌われそうな役で、しかもリアリティゼロだし、それでいて理想化されてるわけではなくけっこう辛辣なからかいの対象になってると思うし、いったい何をしたかったのか全然わからない。バーバラはジョンがきれい好きで自分できちんと家事をするのをやたら嫌うのだが、そんな女見たこともないぞ…(連れ合いがきれい好きすぎて息がつまる、という女は結構いると思うのだが、家事じたいがセクシーじゃないから男がするのはイヤだ、とかいうようなジェンダーロールに凝り固まった女なんて今時いるか?)あとバーバラは「くだらない」ロマコメ映画ばっかり見てるそうで、それをポルノと比較してからかうようなところもあるのだが、上リンクで言われてるようにそもそもその比較がどうなんだっていう話もあるし、さらに最近のロマコメ映画って家事育児をする男ほど高評価だったりするのでなんかいろいろおかしくないか、なんかロマコメ映画をchick flick(女子のもの)としてバカにしてないか、とか、疑問がいっぱい出てくる。とにかくこの映画でのバーバラの描き方はいろいろ女嫌いっぽい悪意が充ち満ちていてなんなんだろうこれ…と思ってしまった。

 詰めが甘いのはバーバラの役柄だけじゃなく、細かいところで結構疑問点はあった。例えばジョンはまだすごく若くてそんなに稼ぎのいい仕事でもなさそうなのにあのライフスタイルを維持できるってどういうことなんだろう、とか、エスタ―の役柄もちょっと唐突感があるような、とか…まあこのへんはデビュー作なのでしょうがないのかもしれないが。

 軽妙な演出スタイルなんかは見るべきものがあるし、遊び人のジョンがやたら信心深くて毎週カトリックの教会に通って告解しているとか、いろいろ掘り下げると面白そうなところもあるし、意外なところにチャニング・テイタムアン・ハサウェイが出てて笑えたり、普通のロマコメと思って見ればまあまあだし監督デビュー作としてはそこそこよくやっていてつまんない映画ではないと思うのだが、まあ結構期待外れだったかなという印象。