チャン・ドンゴンの変なサングラス〜『危険な関係』(ネタバレあり) 

 ホ・ジノ監督『危険な関係』を見た。ラクロの古典の何度目かの映画化で、舞台を1930年代の上海に移したもの。設定などはかなりきちんと原作にある18世紀フランスの社交界の様子を西洋と東アジアの風習が入り交じる華やかな上海租界社交界に移し替えており、違和感は全くない。実は私、『危険な関係』は原著を愛読してるわりに映画化についてはモダナイズか場所を変えたヴァージョンの映画化しか見てないのだが(現代フランスにモダナイズしたロジェ・ヴァディム版李氏朝鮮末期を舞台にした『スキャンダル』、現代アメリカの高校を舞台にした『クルーエル・インテンションズ』)、どれもたいがいちゃんとした翻案になっていたので、これってどこの時代のどこの国にもありそうな上流社会の虚飾と恋愛を描いたものとして翻案・モダナイズしやすい作品なんだろうと思う(時代的制約を受けやすい諷刺モノにしては珍しい柔軟さである)。


 しかしながら、全体の出来から言うと『スキャンダル』のほうが面白かったような気がする…まずたぶん私はホ・ジノの作品は『春の日は過ぎゆく』しか見たこと無いんだけどああいう叙情的なたらーっとした笑いのない恋愛モノが非常に苦手で、今回もスリリングな恋愛ものにしてはテンポがゆっくりしていて感情に流れてるっぽい感じの演出があまり好きになれなかった。あと、美術についてはすごく頑張ってはいるけど『スキャンダル』のほうが作り込んでたと思う。

 一番よろしくないと思ったのはチャン・ドンゴンの服装である!チャン・ドンゴンが変な型のサングラスかけて出てきたりとかまるでチンピラみたいで着てるものが全然色男らしくないのは、あれは時代考証にこだわったせいなんですかね(役者本人のチョイスらしいんだが…)、それとも私がもともとチャン・ドンゴンがあまり好みじゃないからですかね?30年代の上海は治安が悪くて色男でもあんな格好してたのだろうか…とか思ったのだが、しかしながら私、ペ・ヨンジュンも何がいいのかさっぱりわからないけど『スキャンダル』の時は少なくとも衣装は似合っているし色男らしく見えると思ったので、やっぱりチャン・ドンゴンの着てるものが似合ってないというのは私の好みの問題だけじゃなくて衣装デザインとキャスティングの問題なんじゃないかと思う。「何を考えてるかわからない人」っぽく見せるためになんとなくうさんくさい格好にしたのかもしれないが、『危険な関係』の主人公ならまず伊達男じゃなければいかんと思うし、映画に出てくるような色男っていうのは目つきを隠すようなこそこそしたことはしないもんでは?(目を使わないでどうやって女口説くの?)あの主人公は職業スパイ(色男は付属要素)とかじゃなく色男が本職なんだからさぁ…というかそもそもチャン・ドンゴンはこういう役にあっている人なんでしょうか?中国語の台詞は頑張ってるしハンサムだとも思うが、チャン・ツィイーとかと息が合ってるかというとそれほどでもない気も…



 女性陣のほうはそこまで違和感なく、『初恋のきた道』よろしく餃子を作るチャン・ツィイーも、わざと人工的な感じに作ってきているセシリア・チャンも対照的な美しさがあり、またまた最後の場面ではチャンが今まであまり身につけてこなかったような(純潔を象徴する)白いドレスを着て、失った純粋さを嘆く…とかいうあたり、服飾の点でも男性陣より工夫が見られたと思う。ただ、はっきり言って最後のあたりのチャン・ツィイーはロクでもない男にストーカーしているみたいで怖いやら気の毒やら、ちょっと絶世の美女をあんな酷い使い方していいんだろうか、とかなり疑問が…あとベイベイの女優さんの演技はあれでいいんですかね?いくらアホな小娘の役だからって大げさすぎやしないか?チャン・ツィイーセシリア・チャンが抑制された芝居のできる大人の女優だからというのもあると思うが、一人だけ浮いてたと思う。


 ちなみに抗日運動がちょっと出てきている…のだが刺身のツマ程度であまり本筋に効いてこないかと思ったら最後いきなりまた出てきたり、あまりうまく使われているとは言いがたいと思った。ただ、西洋式の京劇の劇場でボックス席から政治ビラをばらまく場面とかはヴィスコンティの『夏の嵐』の影響がかなり濃厚と思われる。しかし、その後ヴィスコンティばりに政治と恋愛が絡んだりはしないので、期待外れだったかも。


 と、いうふうにたくさんけなしたが、別にふつうに恋愛時代劇としては面白い作品なので見て損したとかいうようなものではない。