美術品泥棒の虚と実〜サンディ・ネアン『美術品はなぜ盗まれるのか:ターナーを取り戻した学芸員の静かな闘い』

 サンディ・ネアン『美術品はなぜ盗まれるのか: ターナーを取り戻した学芸員の静かな闘い』中山ゆかり訳(白水社、2013)を読んだ。

 前半部分はテート・ブリテンがフランクフルトに貸し出していたターナー二点が盗まれた事件と、それを取り戻すまでの様々な調査やら交渉やらのルポ。後半は美術品盗難の歴史や予防策などについての一般的な議論である。

 で、これ、資料的価値はとても高い本だと思う…のだが、前半は私はあんまり面白くなかった。このタイトルで想像する内容とは違って、本当に淡々としたルポで、内容もまさに「静かな闘い」である。まあ、研究者や学芸員をやってる人にとってはこういうことは淡々と書いてもすごい大冒険であることはわかると思うのだが、とくにそんなに盛り上がったりする話ではない。

 私がむしろ面白いと思ったのは、美術品盗難について様々な背景知識を提供し、今後に関する分析もある後半部分である。とくに第八章「小説・映画に描かれる美術品泥棒と探偵たち」は、これは美術品に興味が無くても映画、とくに詐欺ものとか冒険ものが好きな人には実に面白いのではないかと思う。美術品泥棒というのが映画などではかなり美化されたイメージで流通しているということがよくわかる。コレクターで美術品を手元に置きたいから盗むという人は全くいないわけではないがかなり少なく、多くは身代金目的だったり、あとテロ組織だったりするらしい(『ホワイトカラー』みたいな華麗な世界では全くないわけですな)。アイルランド系の犯罪組織なんかの話も出てくるんだが、これはドキュメンタリー映画である『消えたフェルメールを探して/絵画探偵ハロルド・スミス』でも取り上げられてたな。