犬に関する積もり積もった偏見〜ジョン・ブラッドショー『犬はあなたをこう見ている:最新の動物行動学でわかる犬の心理』

 ジョン・ブラッドショー『犬はあなたをこう見ている:最新の動物行動学でわかる犬の心理』西田美緒子訳(河出書房新社、2012)を読んだ。

 現在、我々がなんとなく持っている「イヌとはこう付き合えばいい」という固定観念のかなりの部分はあまり合理的な理由がないものであり、イヌと楽しく暮らしていくには最新の学術研究とトレーニング手法を取り入れていったほうがいいのではないか、というようなことを書いた本である。愛犬家なら「イヌはオオカミの仲間なので、群れの上下関係をはっきりさせなければいけない」というような話をなんとなくきいたことがある場合が多いと思うのだが、なんでも「イヌとオオカミはかなり違う動物である」+「そもそもオオカミに関する今までの研究がけっこういい加減だった」ということで、こういう考え方は改めたほうがいいらしい。まず、イヌとオオカミはけっこう早く二つに分かれたものでかなり生態が違うということが歴史的分析からわかっているらしい。またまた、今までのオオカミの群れの研究というのは自然の群れよりは動物園で人為的に作られた群れを主要な対象としていたため、親子を中心とした血縁集団であるオオカミの生態をうまくとらえられていなかったらしい。自然のオオカミの群れというのは、血縁がなく緊張感に満ちたものになりやすい動物園の群れよりもけっこうリラックスした感じのもので、はっきりとした上下序列があるというよりは経験豊かで知恵のあるもの、とくに親を敬うというようなかなり高度な社会性に基づくものだそうだ(もちろん、オオカミの親子関係を分析するのに人間の親子関係の様子を過剰にオーバーラップさせてないか、っていうことは考えないといけないのだが)。こういう話をきいていると、イヌとの付き合い方も子どもの育て方も、人間が何千年もかけて培ってきたいろいろな偏見(主にジェンダーバイアスとか階級の意識とか)に縛られたもんなんだなぁ…というところが感じられて、新鮮だし深く考えさせられる。