社会化されまくった非エコノミックアニマル、使い道のないカネを貯める〜『ホビット 竜に奪われた王国』

 『ホビット 竜に奪われた王国』を見てきた。私、これ原作とか読んでないし全然詳しくないのだが、とにかく一切カネの使い道なんかないであろうドラゴンがひたすら金とか財宝とかをため込んで執着してるっていうのが単純にすごく面白かった。


 
 まあ話は前作『中つ国ヒッチハイク・ガイド』…じゃなかった『ホビット 思いがけない冒険』の続きで、強欲なドラゴン、スマウグがはなれ山の廃虚っぽくなった宮殿で守っているアーケンストーンをドワーフ一行が取り戻そうとするというのが簡単なあらすじである。『中つ国ヒッチハイク・ガイド』だった前作よりはだいぶ暗いトーンで笑いも少なくなっている。

 スマウグはドラゴンなので、別に金を出して食べ物を購入したり家を買ったりする必要ないと思うのだが、なんだかしらんけどとにかく財宝が好きでいろんな金銀をため込んでいる。しかしながらドラゴンなもんで市場には参加してないので(暇な時は長期的な投資やデイトレード等の経済活動とかはしないで寝てるようだ)、ためた財宝は全然有効利用されることもない(交換手段として使われることがないのはもちろん、キレイな宝石を人に見せびらかすわけでもないし、ほんとに文字通り死蔵である)。この世界では黄金とか宝石にはただの商業的価値じゃなく魔術的魅力があるので(中つ国はグローバル資本主義社会じゃない)、スマウグは金銭的価値ではなくそういう魔力に魅入られているということになるのかもしれないのだが(原作ではひょっとしてこれについてもっと説明があるのだろうか)、それにしたってその魔力だけであんなに財宝をため込んで何も使わないというのはなかなかに見ていて違和感がある。なんというか社会化されたせいで使うわけでもないのに財宝の価値だけわかってしまってそれに取り憑かれている人を見ているかのようで、そこはかとなく気の毒にすらなってしまう。全く使い道がないのに金を貯めるというのはそれはそれで金の価値をある意味無化するという点で革新的行為なのかもしれないが…ベネディクト・カンバーバッチのドラゴンぶりが板についているし、見ているほうとしては『スター・トレック イントゥ・ダークネス』の悪役をひきずってしまうところもあるので、なんとなくスマウグの気の毒なまでの執着ぶりに注目してしまうというところもあるのかもしれない。


 一方、衰退している湖のほとりの街では小銭稼ぎにあくせくする市民がたくさんいてドワーフ一行も金がなくなって困っているとかいう話が描かれている。ドワーフホビットがいる世界はファンタジーの世界なのだが、どうやら意外に現実的で、経済活動も不況もあるようだ。ドワーフご一行が「スマウグから奪った財宝は街に分け与える!」と宣言すると市民が大喜びして一行の危険なドラゴン討伐に賛成するあたりも、「ドラゴンを倒せば死蔵された金銭が市場に出まわる」という期待感によるものである(この街の小人物で強欲なボスがスティーヴン・フライだっていうのが適役ですばらしい)。しかしながらドワーフご一行が宮殿でスマウグを倒す計画は失敗し、財宝は解き放たれないでブチ切れたドラゴンだけが解き放たれてしまった。いったいこの金の話はどうなるのか。次回に乞うご期待!ということで、本作は金がどうなるのかわからないまま途中で終わってしまう。中つ国の経済活動の運命やいかに…もう金のことしか考えられないよ!

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