ゴドーを待たない〜『LIFE!』(ネタバレあり)

 ベン・スティラー監督・主演の『LIFE!』を見てきた。


 
 これ、おおもとはダニー・ケイ主演のコメディ『虹を掴む男』で、とても有名な作品なのだが未見である。

 あらすじは、廃刊寸前のライフ誌で写真ネガ管理をしている、まじめだが白昼夢を見るクセのあるウォルター(ベン・スティラー)が、送られてきたはずなのに見つからない最終号の表紙写真のネガを求めて、ネガを送った写真家であるショーン(ショーン・ペン)を追いかける冒険の旅に出るという話である。ウォルターとショーンは信頼しあっているビジネスパートナーでライフ誌の充実のために尽力してきたが、世界中を飛び回る風来坊のショーンとウォルターは対面では一度も会ったことがない、というのはミソ。

 いろいろツッコミどころはあるし、自己啓発っぽい宣伝もどうかと思うが、この映画、私はすごく好みである。っていうか私だけが面白い映画なんじゃないかというくらい私がツボなネタが多かったのだが、そんなに評判が悪くないので皆けっこういろんなところにツボがあるんだろう。

 まずはエイヤフィヤトラヨークトル火山の大噴火が出てくるだけでもう画面に釘付けだ。日本に住んでると実感ないかもしれないが、このアイスランドの火山は2010年に大噴火してヨーロッパの空の交通が一切機能しなくなり、ロンドンでも帰国難民が大量に発生した(うちに一人、匿った)。ということでヨーロッパの北のほうに住んでた人ならエイヤフィヤトラヨークトルの激ムズ綴りがあの紙にうつった瞬間、「これはヤバい」と思うのだがそこはアメリカ人でよくヨーロッパの地理を知らないウォルター(いやまあ噴火前はヨーロッパ人も誰もエイヤフィヤトラヨークトル山なんでしらんかったわけだが)、アイスランド語もわからずショーンを探してスケートボードで火山に突撃。ところが大噴火が発生し、地元の人に救われる。ここでショーンが噴火に向かってカメラを構えながらヘリだか小型飛行機だかで突撃していく様子が後ろ姿で映されるのだが、実際のエイヤフィヤトラヨークトル山の噴火ではヨーロッパの空の交通が噴煙でほぼ停止したことを考えると、このショーンのデアデビルっぷりはすごい。この前にウォルターが酔っ払ったパイロットの操縦するヘリに乗って危険を顧みず海に向かうというところがあるので、ここはおそらく「今までは小心気味だったウォルターが会ったこともないショーンに影響されてどんどん大胆に」というのを示しているんだろうと思う。

 全体的な話も、私は好みだった。これ、一言で言うと「ゴドーを待たない」話だと思うのである。最初、ウォルターは一度も会ったことのないショーンに結局対面で会えず、捜し物である写真もマクガフィンとして画面にうつらないで終わるのかと思ったのだが、ウォルターはしつこくショーンを追いかけて出会うことができたし、写真も最後にちゃんと出てくる。ここはちょっとご都合主義な気もしたが、写真自体はなるほど…と思うような感じですごくきちんとオチがついている。神の不在とか不条理についての話もいいけど、たまにはこういう夢見る力をストレートに称える話があってもいいじゃんか、という気がした。ウォルターは夢見がちな男から行動的な男に変化したんじゃなく、夢を見る力によって失われていたものを回復させたのであって(グリーンランドで「スペース・オディティ」を脳内再生する場面とかまさにそうだろう)、この映画はある意味妄想に近いような夢でも力があるのだ、ということを言っていると思う。妄想描写は『アリー・マクビール』にかなり似ており、ああいう白昼夢描写を男性でちゃんとやろうという心意気もいいと思った。個人的にはウォルターとショーンが出会うまでのところがまるでベン・スティラーショーン・ペンのおっさんスラッシュのようで実にほほえましかったのだが、これは二人の息がよくあっているからだと思う。


 しかし、よく考えるとこの映画のウォルターの役って、『ナイトミュージアム2』で同じくベン・スティラーが演じたラリーの役と同じなんじゃないかっていう気が…『ナイトミュージアム2』は「会社や金なんかを転がすのは、一見冒険的に見えるが実は猪口才でくだらん仕事である。過去のものを研究・保存して知を求め、人々に知識を伝える活動のほうが真に冒険的であり、かつ有意義である」というかなり反ネオリベ的な話だと思うのだが、写真のネガという過去の遺物を管理することで冒険に誘い込まれるウォルターもラリーと同じような経験をしていると思う。家計簿をつけるのが日課のウォルターが最後、ピアノを売らなきゃ暮らせない失業者になるというところは、金より大事なものがあるっていうことを言っているとも思うのだが、『ナイトミュージアム2』もわりとそういう話だった。ベン・スティラーの世界ではお金よりも夢を見る力のほうが大事らしい。だから我々はベンが好きなんじゃないのか?

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