ロックバンドやミュージシャンが、会社やマネージャーに文句を言うために書いた曲の数々

 突然だが、ポピュラー音楽には「バンドが会社やマネージャーに文句を言うために書いた曲」というジャンルがある。ポピュラー音楽は芸術でありかつビジネスであって、まあ芸術家っていうのはどんなジャンルでもけっこう浮き世離れしているもんだが、それを売る興行主のほうは昔からあくどいビジネスばかりしていると相場がきまっているもんだ(というのは単純化しすぎだろうが、そういうこともある)。それでバンドやミュージシャンがレーベルやマネージャーに騙されたりすることもよくあるわけだが、そういう場合、芸術家はその怒りを歌にして表現する。ちょっと今日はそういう歌をリストしてみたいと思う。


レーナード・スキナード'Workin' for MCA'(1974)

Lynyrd Skynyrd Workin' For MCA

 「さっさと契約してくださいよ!」みたいな歌詞なのだが、けっこうユーモアのある曲だと思うので、辛辣さは後に出てくるクイーンとかよりは全然、マシだと思う。


・クイーン'Death on Two Legs'(1975)

Death On Two Legs (Queen Live @ Earl's Court '77)

 元マネージャーのノーマン・シェフィールドのマネジメントがあまりにもひどかったので、フレディが怒って書いた曲だと言われている。非常によく書けてる曲でライヴでも演奏されており、また場所とか相手を特定できるような歌詞がないのでカヴァーもされてる。
→クイーンだと、'Sleeping on the Sidewalk'(1977)もレーベルがとにかくひどい!っていう歌である。これはフレディじゃなくブライアン・メイが書いて歌っている。

Queen - Sleeping On the Sidewalk (Official Lyric Video)


ピンク・フロイド'Have a Cigar'(1975)

PINK FLOYD HAVE A CIGAR
 特定のレーベルやマネージャーを罵るというわけではないのだが、バンドが売り込みの途中で何かすごく不愉快な思いをしたらしいことが窺える、イヤーな曲である。


ニック・ロウ'I Love My Label'(1977)

Nick Lowe - "I Love My Label" (Official Audio)
 表面的には穏やかな歌詞なのだが強烈な皮肉がこもっているのでちょっと怖い。ウィルコが2011年にカヴァーしてる。

WILCO - "I Love My Label" (Nick Lowe cover)


セックス・ピストルズ'EMI'(1977)

Sex Pistols - EMI
 タイトルどおりEMIに契約を切られたことを歌う歌である。そのまんまだ。
→これはなんとジョーン・ジェットが'MCA'(1993)としてカヴァーしている。ジョーンがMCAとモメてた時にレコーディングしたのだそうだ。

Joan Jett - MCA


・ハート'Barracuda' (1977)

Heart Barracuda (1977)
 ハードロックの名曲として有名だが、マッシュルーム・レコーズが話題作りのためにバンドメンバーのウィルソン姉妹がレズビアンで近親相姦関係にあるというイメージを売ろうとしたことに対する怒りの曲らしい。女性のロックミュージシャンは、こういうセクハラまがいのレーベルの方針に悩まされてきたんだな…ただ、特定の人物に対する言及とかがないので何度もカヴァーされてる。


・クラッシュ'Complete Control'(1977)

The Clash - Complete Control (Official Video)
 これも有名曲だが、CBSレコーズが勝手に'Remote Control'をリリースしたこと、マネージャーのバーニー・ローズとマルコム・マクラレンがやたらと支配的に振る舞うことへの批判を歌ったものである。


・スティフ・リトル・フィンガーズ'Rough Trade'(1979)

Stiff Little Fingers - Rough Trade (CD Version)
 スティフ・リトル・フィンガーズはベルファストのパンクバンドなのだが、これもそのものずばりラフ・トレード・レーベルをタイトルに頂く歌である。歌詞の内容はレーベルそのものよりは一般的にレコード業界が汚い、ということを歌っているように見えるがとにかく怒りの熱量がハンパない。


・グレアム・パーカー&ザ・ルーマー'Mercury Poisoning'(1979)

Graham Parker & The Rumour - Mercury Poisoning (Live In San Francisco, 1979)
 マーキュリー・レコードと長らく不仲だったらしい。


・ジョン・フォガティ'Zanz Kant Danz (a.k.a. Vanz Kant Danz)'(1985)

John Fogerty - Vanz Kant Danz
 この歌はファンタジー・レコードでボスだったソウル・ゼインツのことだそうな。フォガティとゼインツは法廷闘争をやってた。


・スミス'Paint a Vulgar Picture'(1987)

The Smiths - Paint A Vulgar Picture (Strangeways,Here We Come)
 まあ、スミスだし。


ビリー・ジョエル'The Great Wall of China'(1993)

Billy Joel - The Great Wall Of China
 ジョエルの金を持ち逃げした疑惑がある元マネージャー、フランク・ウェバーについての歌。



・GZA'Labels'(1995)

GZA- Labels (Lyrics)
 ヒップホップのほうでもレーベルとのトラブルっていうのは山ほどありそうだ。


・バイナリ・スター'Indy 500'(2000)

Binary Star - Indy 500
 会社の人が音楽のことをわかってない、というような歌詞がある。


NOFX 'Dinosaurs Will Die'(2000)

NOFX - Dinosaurs Will Die
 タイトルを見ただけでわかると思うが、「恐竜」が旧態依然とした貪欲な音楽企業のこと。この歌詞は昨今の日本の音楽業界とかを見ていると「お、おう…」と思ってしまうところがある。


ベン・フォールズ'One Down'(2002?)

Ben Folds "One Down" and song explanation
 契約のせいでやたらとたくさん会社に曲を書かされる、という歌。


・クラッカー'Ain't Gonna Suck Itself'(2003)

cracker - ain't gonna suck itself
 ヴァージン・レコーズを出てこの歌を作ったらしい。


 とりあえず有名曲はパンクバンドのものが多いが、ヒップホップ、ハードロック、アメリカーナなど、あらゆるジャンルのバンドがマネージャーやボスやレーベルとモメているらしい。個人的な諍いに関する歌がある一方、業界全体の腐敗を歌うものもある。なんか1970年代にこのジャンルで名曲がやたら出ているのだが、相当にミュージシャンと会社の関係が悪かったんだろうか。パンクムーヴメントのせいかもしれないが、クイーンやハートはハードロックだし…