モンティ・パイソンの中世文化〜テリー・ジョーンズによるチョーサー研究書、Chaucer's Knight

 テリー・ジョーンズによるチョーサー研究書、Chaucer's Knight: The Portrait of a Medieval Mercenary (Methuen, 1980)を読んだ。

Chaucer's Knight: The Portrait of a Medieval Mercenary (Methuen Paperback)
Terry Jones
Methuen
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 これ、30年以上前に出た研究書で、著者はモンティ・パイソンテリー・ジョーンズである。ジョーンズはコメディアンである一方、在野の歴史家として活躍しており、このChaucer's Knightは相当に堅い本である。チョーサーの『カンタベリ物語』に出てくる騎士は、先行研究においては美徳の鑑のような存在として見なされていたが、実はしがない傭兵で美徳とはほど遠く、チョーサーの一見騎士を褒めているような表現はほとんどが注意深く練られた諷刺、皮肉ではないか、というのが本の趣旨である。なんかどうも補訂版が出てるとかいう話もあるのだが日本のアマゾンに出てない?みたいで、ちょっとよくわからなかった。この本の出版履歴についてはっきりわかる人います?いたら是非コメント欄で教えを…

 チョーサーを熟読しつつ他の文献を使って幅広く中英語のややこしい語彙を分析したり、中世社会の背景を掘り下げて当時の読者による受容を考えるあたり、分析は読んでいて非常に面白いものになっている。私は『カンタベリ物語』にそんなに詳しいわけではないが、チョーサーってすごく諷刺好きな著者なんだなーとは思っていたので、騎士が美徳の鑑とはいえないことをチョーサーがチクチク指摘しているというところには納得できるところもたくさんあった。だが、一方で「そんな少ない論拠からそんなにたくさんのことが言えるのかな?」というような、いくぶん根拠が薄いと思われるところも結構ある。私は中英語が専門ではないのでこの学説にどの程度妥当性があるのかはわからないし、またまたこの本はかなりコントロヴァーシャルな本だったらしいので賛否両論あったのだろうが、とりあえずいわゆる素人のトンデモ学説というわけではないと思う。少し怪しいところもあるけど検討する価値はありそうな説、くらいかな?そしてたぶんこういう説の積み重ねで過去の文学のことがわかってくるというところがあるはずなので、こういうアカデミックな精神に基づいてはいるがちょっと大胆にテーブルをひっくり返すようなことも言う研究書というのは学界ではしばしば必要とされているだろうと思う。

 しかしながら最も面白いのは、テリー・ジョーンズはおそらくチョーサーに「英語の諷刺の祖」としての理想像を見てるんじゃないかなーというところがこの堅い本のそこかしこから見えてくるところである。あまり研究の内容を個人史に還元するのは趣味が良くないと思うが、ジョーンズがあれだけ諷刺コメディアンとして活躍していたことを考えると、おそらくジョーンズはコメディを作る時も文学研究をする時も細かいところから政治諷刺の精神を読み取るということをたえず行っているのであろうと思う。自分で笑いを生みだすには、人の笑いを引き出す心構えが必要なのだろうか…と思ってしまった。