20世紀UK女子トラブル文化史〜Carol Dyhouse, Girl Trouble: Panic and Progress in the History of Young Women(『女子の問題:若い女性の歴史におけるパニックと進歩』)

 Carol Dyhouse, Girl Trouble: Panic and Progress in the History of Young Women(Zed Books, 2013)[『女子の問題:若い女性の歴史におけるパニックと進歩』]を読んだ。

Girl Trouble: Panic and Progress in the History of Young Women
Carol Dyhouse
Zed Books
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 サセックス大学の先生であるキャロル・ダイハウス(という発音だと思うが自信なし)が書いた、20世紀UKにおける女子の文化史である。とはいえタイトルにもあるとおり、この本は女子であることがいかにトラブルとしてとらえられるか、みたいなものを中心的に扱っている。20世紀社会の変化の中で、若い女の子のライフスタイル、とくにセクシュアリティがいかにメディアや政治の場で問題化されてきたか、ということがこの本の中心的関心であり、カバーしているトピックはホワイトスレイヴ(誘拐等により強制売春させられることになった女性)、「新しい女」、女性参政権運動、フラッパー、女子教育、ビートガールズ、女性解放運動、ガールパワー、新しいところだとラデッツ(ladの女性版で、ちょっとこれUK英語特有の表現だと思うので説明しづらいのだが、お酒飲んだり騒いだりする荒っぽい若い女性たち。イメージとしてはシャルロット・チャーチ等)などである。

 この本を読んでいて思うのは、20世紀のUKで女子として生きていくと言うのは何をしても文句をつけられる実にトラブルまみれの体験だったのだな…ということである。真面目に教育を受ければ健康な母親になれないと文句をつけられる一方、派手に遊びまわっていればふしだらだと文句をつけられ、気が休まる暇がない。とはいえ、これはおそらく別に20世紀のUKじゃなくてもどこでも女性が経験していることである気がする。

 個別のトピックとしては、20世紀初め頃のホワイトスレイヴに関するモラルパニックの話などは、全く知らない話題なので実に興味深かった。誘拐による強制売春というのは実はそれほど多数発生した事例ではなかったらしいのだが、それがやたらにメディアの注目を集め、どんな若い女性も誘拐されて売春させられるかもしれない!というような恐怖が保守派だろうがフェミニストだろうが政治的左右を問わずにいろいろなところに広がっていったらしい。これはある種のメディアリテラシーの話題としてとらえることもできるかもしれないと思う。

 女性参政権運動の話では、UKでは16歳くらいでサフラジェットになる女性もいたという話が面白い。20世紀の初め頃だと労働者階級の女性は10歳とか12歳くらいになるともう働き始めていて(少ないとはいえ)稼ぎも独立心もあり、かつ初等教育だけは受けていて文字も読めるのでかなり活動的な参政権運動家になることがあったそうだ。こういう10代の女性労働者たちがどうして選挙権をほしがるのか、まあ私からすると当たり前に思えるのだが、女性参政権運動をとりしまる側であった当時のミドルクラスの男性たちにはなかなかわからない世界であったらしい。

 60年代以降になるとビートルマニアによる若い女性の性欲の表出とか(これはもちろん危険と見なされていたわけであるが)、なじみのある話題が増えてくる。最後のあたりでは前にレビューしたナターシャ・ウォルターのLiving Dolls: The Return of Sexismや、エーリアル・レヴィのFemale Chauvinist Pigs: Woman and the Rise of Raunch Cultureも登場して、少女の過剰な性化というおなじみのトピックが扱われているが、このあたりはかなりバランス良く論じていると思う。

 全体的には20世紀UKの女子文化をちょっと思いつかないような切り口で切ったわかりやすい歴史ものということで、とてもオススメの本である。学者が書いているわりにはわかりやすく一般向けであるというところもいい。