オランダのおっさんの光と影〜『人生はマラソンだ!』(ネタバレあり)

 『人生はマラソンだ!』を見てきた。

 舞台はオランダのロッテルダム。車の修理工場を経営するギーアと、その仲間で従業員であるニコ、キース、レオ。おっさん四人で、エジプト系で足の悪い若い従業員、ユースをこき使ってのんびり暮らしている。ところが工場の税金未払いをギーアが隠していたことが発覚。金集めのため、スポンサーを募っておっさん四人がマラソンに出ることに。かつてマラソン選手だったユースのおじさんから広告費をもらい、ユースにコーチもしてもらって、完走できないと工場を明け渡すという約束でマラソンにそなえるが…という話。

 おっさん四人のキャラをとにかくうまく描き分けつつ、オランダの都市ごとの対抗意識、移民差別、ホモフォビア、養子制度、売春にまつわる問題、宗教と世俗の対立などを手広く盛り込んだ映画である。私もオランダの文化については詳しくないのでよくわからないネタとかもたくさんあったのだが(ギーアが病院で捨てるカードは保険証なのか何なのか、とか)、それでも面白かった。このワーキングクラスのおっさん四人は、最初はエジプト系のユースを差別したり(キースはオールドカマーのトルコ系らしいのだがかなりユースと自分を分ける)、ホモフォビア的なジョークを言ったり、なかなかにひどいおっさん達なのだが、ユースにマラソンを教わるとどんどん「成長」して素敵なおじちゃまたちになっていくあたりが良い。ネタバレになるが、とくにマラソンがずいぶん上達したニコは自分の同性愛的傾向に向き合うようになり、スポーツショップのイケメンな店員に不覚にもときめいてしまうなどのおっさんスラッシュもあり、なかなか微笑ましく可愛らしい展開になる。

 ただ、二点ほど非常に疑問なところがあった。ひとつめとして、実はギーアはかなり進行したガンにかかっていてそれを妻子に死ぬまで隠してるとかいうものすごいシリアス展開があるのだが、ギーアが心配させないよう家族にも友達にも病気を黙っているというところは、なんか妙な「男らしさ」、人に心配をかけないのはよくないという見栄にとらわれている気がしてあまり納得がいかなかった。とくにギーアは最も夫婦仲がいいという設定なので、ちょっとあのよくできたレニ(ベーカリー勤めでやたらケーキのことばかり気にしているが深く夫を愛している)が最後まで夫に病気を打ち明けてもらえないのはどうかなぁと思う。もうひとつ疑問があったのはレオの妻であるアニータの筋である。アニータは元娼婦で、シングルマザーになり、ポン引きに虐待されて困っているところをレオに助けられたらしいのだが、息子のジェイデンをほったらかしてヤク中男と浮気し、ジェイデンの教育に気をつかっているレオに追い出されてしまう。この映画ではギーアの息子ハリーも養子という設定だし、男性一人でも血のつながりがなくても子どもを育てられる、っていう話にしたかったんだろうが、このストーリーラインだと「元娼婦だと母親としてもダメ」みたいな感じですごいミソジニーを感じる。このあたりがあまりよくなかったなぁ…