タイムリーな増補版、ウィリアム・ブロード&ニコラス・ウェイド『背信の科学者たち−論文捏造はなぜ繰り返されるのか?』

 ウィリアム・ブロード&ニコラス・ウェイド『背信の科学者たち−論文捏造はなぜ繰り返されるのか?』(講談社、2014)を読んだ。

背信の科学者たち 論文捏造はなぜ繰り返されるのか?
イリアム・ブロード ニコラス・ウェイド
講談社
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 絶版になっていたものが最近のいろいろなスキャンダルのために増補版として復刊されたものだそうで、最後に訳者による解説が一章ぶんついており、森口問題や小保方問題も簡単にカバーされている。このあたりは急な事態に対処するための増補なので、深くつっこんであるというわけではないのだが、資料としては使える。


 科学における不正行為の歴史を扱った本で、古代から現代まで手広くカバーしている。とりあえず面白いのは、科学史に名を残すプトレマイオスやらガリレオ・ガリレイ、メンデルなども不誠実なことをこっそりやっていた形跡があるということである。性格が悪かったと噂のニュートンならともかく、神に仕えていたメンデルもズルを…などというとちょっと意外性があってスキャンダラスな興味もかきたてられてしまうところがある。あと、この本は野口英世には大変厳しい評価を下していて、こんな人をうちらはお札にしてたのかと思うとちょっと驚いてしまうところもある。しかしながらガリレオ・ガリレイやメンデルみたいな明らかに才能があった偉大な科学者でもふとした気の緩みや功名心や自信過剰のためにデータの操作などを行ってしまうというのは、人文学でもありそうなことでもあるし、なかなか他人事とは切り捨てられないところもあると思った。学問をやる人は精神が弱ってそういうことに手を出さないよう、皆気をつけないとならない。


 訳者解説で一番興味深いのは、日本でミスコンダクトが発覚するようになったのは「日本でも競争的な研究費の傾斜配分が重視されるようになった」(p. 338)からではないかという推測である。ここは確かに訳者が述べているようにはっきりとした調査研究が行われているわけではないのだが、大いにあり得ることだろうとは思う。