サイバー・ムジャーヒディーンから少女漫画まで、イスラーム世界のネット事情〜保坂修司『サイバー・イスラーム―越境する公共圏』

 保坂修司『サイバーイスラーム―越境する公共圏』(山川出版社、2014)を読んだ。


 125ページの大変薄い本なのでそれほど突っ込んだ分析はなく、現状の紹介という感じなのだが、それでもいろいろ面白い情報が解説されている。イスラーム圏におけるネットの使用に関して、初期は思ったほど宗教的な抵抗は強くなかったそうで(それでもいろいろな批判や検閲もあるらしいが)、一般信徒から過激な反体制活動をする人々まで、いろいろな方法でネットを使っているようだ。

 大部分は「アラブの春」のネット使用に関する批判的分析(ネットの力がけっこう強調されすぎているきらいがあるとか)とか、サイバームジャーヒディーン(!)とか、きなくさい話が多い。イスラーム戦士ハッカーみたいなのがいたり、さらにはネットで有名になった人が実際にダブルスパイをやってたりとか、まるでハリウッド映画かなんかみたいな話がずいぶん出てくる。

 一方で一般信徒がふだんどういうふうにネットを使っているかという話もある。コーランなどのテキストの電子化というのはまあすぐ考えつきそうな利用法だが、けっこう下世話な利用法もたくさん紹介されている。男女交際がおおっぴらにできない状況の中でも存在する携帯電話を使ったナンパ(ブルートゥースを開けておいている相手をナンパするらしい)とか、なかなか外でスポーツなどをする機会のないようなイスラーム圏の若い女性は日本の少女漫画みたいな家で楽しめる娯楽にけっこう関心があるとか(まあ、ここはネットで情報収集したりするわけだが)、なかなか興味深い。イスラーム圏では検索エンジンについて「シェイフ・グーグル」とか「イマーム・ヤフー」(!)とかいう言葉を使ったりするそうで、これは本文でも指摘されているとおり、日本語話者が「グーグル先生」とかいうのにそっくりである。ところが一般信徒がシェイフ・グーグルでファトワーを検索したりすると誰がどこで出したのかもわからんようなニセファトワーが出てくることも珍しくはないそうで(この間出回ってたISのファトワーだっていうデマファトワーはたぶんその一種だよね?)、全く神の権威を借りてデマを流すとは太い奴らだと思った。

 この手の話題は、最近ISがずいぶんネット活動をしているのでホットなトピックだと思う…のだが、この本は4月に出たのでその部分はもちろんカバーされていない。とはいえ、最近の政情を考えると目を通しておいてもいい本だと思う。欲を言えばもうちょっと女性のネット利用(前に出た研究会で、イスラーム圏のギーク女性のネット活動とかの話をきいたことがあるのだが)とか、社会事業系のものを少しカバーしてほしかったかなという気はするが、まあブックレットなのでそこまでたくさんはカバーできなかったんだろう。