預言者は比喩的にのみ語る、そしてお尻丸出し将軍は実在した〜『サウスパーク』のチームが作ったミュージカル『モルモンの書』(The Book of Mormon)(注意:当たり前のように下品な表現があります)

 ロンドン最後の観劇として『モルモンの書』(The Book of Mormon)を見てきた。『サウスパーク』のクリエイターであるマット&トレイが作ったミュージカルで、絶対に日本で上演されることはないだろうと思ったので行ってきた。

 主人公はアメリカ人の若きモルモン伝道者、プライスとカニンガム。プライスはデカいことを成し遂げたいと野心と信仰に燃えている優等生、カニンガムは『モルモンの書』も読み通せてないようなボンクラくんなのだが、プライスと組んで伝導に行くことになり、始めて友達ができたと喜んでいる。2人はウガンダに派遣されるが、派遣先は暴君General Butt-fucking Naked(これどうやって訳す?「お尻丸出しヤリヤリ将軍」?)が圧政を行っている貧しい村で、飢えにエイズに紛争に、ナイーヴなモルモンちゃん2人が信仰だけで対処できるようなところでは全くなかった。プライスは頑張るがアメリカ人らしいのぼせあがりが地元民に嫌われて全く布教はうまくいかず、一方でドジなカニンガムが苦し紛れにスター・ウォーズエイズ流行とかをまぜこせにしつつ変な神話を作って村人にきかせたところ、村娘のヌブルンギ(すごく発音が難しい名前なので登場人物もちゃんと発音できないのがネタにされてる)をはじめとして村人は改宗。ところが変な教義を布教していたのが本部にバレてしまい、ヌブルンギはカニンガムが本当のことを言っていなかったとおかんむり。ところが村人たちはそんなヌブルンギがナイーヴすぎると呆れ、「預言者というのは比喩的に語るものだ」「神話は象徴的に解釈すべきものであって実話ではない」というようなことを教える。最後は口に出すのがはばかられるような名前の将軍(←下品でごめんなさい、でもこういう名前だからな…)もプライスたちの脅し(?)で改宗し、皆モルモン教徒になって終わり。

 あらすじだけだとよくわからないかもしれないが、基本的にこのミュージカルは宗教に対して敵対的な内容では全くない。モルモン教徒を扱っており、組織的に運営されている宗教に対しては非常に批判的だが(正統的なモルモンの教義に固執するおえらいさんたちは皮肉られている)、神話や宗教の教義を象徴的に解釈して人生の指針とすること、純粋な気持ちで信仰を持つことについてはむしろ肯定的で、プライスもカニンガムもどっちもナイーヴすぎる変なやつらだが基本的に善良だ、というふうに演出されている。諷刺もおおらかな感じで、聞いていて気持ちの良いコミカルな音楽ともあいまって、見た後は爽やかな感じすらする。もともとドジで『モルモンの書』すらちゃんと読んでないがある意味でクリエイティヴィティに溢れているカニンガムのほうが、優秀だがいけすかないプライスよりも実は信仰を伝えるのにふさわしい器であった…というのはなかなか胸がすっとするものがあるし、さらにこれを作っているのがおそらくアメリカでもトップクラスにクリエイティヴな連中であることを考えると、この話は宗教も芸術も象徴を生みだすクリエイティヴな活動という点で類似したところがある、というのをフザけたやり方でほのめかしているのかもしれない。

 むしろちょっと冗談きつすぎるのはアフリカ描写のほうで、まあ誇張しまくったアフリカ描写は既に『サウスパーク』の時からお馴染みなのだが、いくらなんでもここまでやるとウガンダの人は不愉快なのではないかと思うところがけっこうあった。ただ、リベリアには本当に「お尻丸出し将軍」(General Butt Naked)と呼ばれる人がいたそうで、変なところできちんと調査をしているのはさすがだと思った(っていうかこの人の経歴がヤバすぎてびびった)。

 と、いうことで、全体的には信仰を持つ人におすすめしても別にかまわなそうな話だったし(私の基準では、ということなのであまり信用しないでほしいが)、思ったほど尖っているわけではなかった。『ライフ・オブ・ブライアン』なんかよりは全然、大人しく優しい話である。

 
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