誤配をめぐるロマンス〜『めぐり逢わせのお弁当』(ネタバレあり)

 『めぐり逢わせのお弁当』を見てきた。ムンバイの弁当配達サービス、ダッバワーラーが弁当を誤配したため、弁当の作り手で夫にないがしろにされている妻イラとたまたま弁当を受け取った退職間近の寡夫サージャンの間にロマンスが芽生えるという作品。

 ダッバワーラーというのは日本にないものなので、まずそこがなかなか面白いというのがある。勤め人が出かけた後、家族の者が弁当を作り、それを回収して各勤務先に届け、昼食時間が終わったら回収してまた各家庭に戻すというのが仕事らしい。そんなら朝出かける時に弁当を持っていけばいいんじゃないかと思うのだが、温度とかの関係で問題があるのかな?しかし回収して返すところまでやるというのはなかなか不思議だった。勤め人が一緒に持って帰るのではダメなんだろうか?

 イラとサージャンが弁当箱に入れた手紙だけで会うことすらなく想いを通じ合わせていくあたりは非常に淡々としており、ちょっと中だるみの感じもある。しかしながらイラの父親が長患いで金銭的にも苦労した末にガンで亡くなり、それをきっかけに故郷へのしがらみが切れたのかイラが夫のもとを離れて出て行こうとするあたりは極めてリアルで、かつ夢もある終わり方になっており、イラを探そうとするサージャンの場面で終わるあたりも余韻が深い。サージャンが「若い女に惚れてウハウハなオッサン」とかではなく自分の老いにショックを受けて「若く美しい女性に自分のような年取った寡夫は似合わない」と身を引こうとするあたりの奥ゆかしさも良いと思う。別におっさんが若く美しい女性と恋をしても何も問題ないから遠慮する必要ないしサージャン頑張れ!とか思ってしまうのだが、一方で若い女にモテたいと普段から思ってるようなおじさんよりはこういう謙虚で相手に気を遣いすぎているようなおじさんのほうがモテるもんだと思うので、なんともいえない現実感がある。全体的に、地味だが女性の自立心を肯定するような作りになっている。

 淡々とした真面目な物語だがかなりユーモアもあり、声だけしか出てこないがイラに毎日にようにアドバイスをしてくれる二階のおばさんや、「弁当誤配とかあり得ない!」と言い張る配達人などはけっこう可笑しく、笑ってしまう。笑いとしみじみした哀感の両方が味わえる作品である。