1920年代のニューヨークを舞台にした『オセロー』の翻案もの〜『The Lost Glory―美しき幻影―』&『ラテン・グルーヴ パッショネイト宝塚!』(ネタバレあり)

 宝塚で『The Lost Glory―美しき幻影―』&『ラテン・グルーヴ パッショネイト宝塚!』を見てきた。『オセロー』の翻案ものだというので行ってみたのだが、思ったよりわかりやすく『オセロー』だった。

 舞台は1920年代末のニューヨーク。主人公は移民の息子から建築会社の社長にまでのしあがったオットー・ゴールドスタイン(轟悠)。オットーは名門の娘で画家であるディアナ(夢咲ねね)と電撃結婚し、新しいビルの建設も発表して順風満帆に見えた。ところが新しいビル建設プロジェクトの社長の座を逃してしまったやはり移民であるオットーの部下、イヴァーノ(柚希礼音)はオットーに激しい復讐心を燃やし、ディアナが不貞を働いているという噂を流す一方、裏で手を回して会社を乗っ取る作戦をたて、オットーを公私両面で追い詰めようとする。

 高層ビル建設をからめたストーリーにあわせて、セットは高層ビルをオブジェ化したような小型の塔をいくつか中心に据えている。着るものなどもかなり20年代風にしているようだ。ただ、時代考証はけっこう頑張っているのに台詞に二度も「入籍」という単語が出てくるのには著しく興を削がれた。1920年代のニューヨークに戸籍があるわけないので、もう少し調べたほうがよかったんじゃないないのか…別に「結婚」とか「役所に行ってきた」とかでも普通に通じそうな場面だったし。わりとロマンティックな場面だったので、日本の時代劇で江戸時代が舞台なのにオムライスを食べてるとか、そのくらいのレベルで興ざめだったな。

 オセローにあたるオットーだけでなく、イアーゴーにあたるイヴァーナも移民という設定にしているあたりが面白いかと思う。さすがにヒーローを日本人のブラックフェイスにして出ずっぱりだとミンストレルショーみたいで差し支えがあると思ったのか、オットーはギリシャ系、イヴァーナはイタリア系で非嫡出子という設定にしてある…のだが、オットーの執事サムはアフリカンという設定になっている(さすがに一人もアフリカンを出さないのもちょっとなぁ…と思ったのか?)。最後はオットーではなくイヴァーノが死を遂げるという結末に変更されている。

 シェイクスピアにローリング・トウェンティーズの風俗に株の大暴落と建築バブル崩壊まで盛り込んで2時間くらいで最後きちんとまとめるという脚本はかなり頑張っていると思うし、最後の改変などもドラマティックで十分楽しめた。人種差別などの政治的テーマはなくなってるし、ディアナの画業のところで半端に女性の自立話みたいなのが出てくるけど結局うやむやになってしまうところも物足りないし、また20年代の描写にしてはちょっとクリーンすぎる気もしたが、まあ宝塚だからそのへんはしょうがない。ただ、若干いろいろ詰め込みすぎてくどいような気も…

 レビューのほうはなんかジャングル音頭みたいな感じで、私があまり好きじゃないヘンなエキゾティック幻想がたくさん出てきてそんなに楽しめなかった。以前、始めて『ロミオとジュリエット』を見た時はむしろレビューのほうが気楽に楽しめて良かったんだけど、今回は逆だったかなぁ。