科学と霊性の間〜ビョーク『バイオフィリア・ライブ』

 池袋のシネリーブルでビョークの『バイオフィリア・ライブ』を見てきた。2013年9月にロンドンのアレクサンドラ・パレスで行われたバイオフィリア・ツアーの最後のライヴを収録した映画である。

 とりあえず、ライヴの記録映画としての出来はかなり素晴らしいと思う。このツアーはオペラみたいな完全なる総合芸術として企画されており、ビョークが歌うだけではなく、ヒトデやら火山やら海やら、自然物の生と死のサイクルをイメージした映像がふんだんに織り込まれ、総体で運動する有機体のように音楽と一体となっている。色彩をデフォルメした海洋生物のフッテージとかはかなりサイケデリックだが、腐敗とか分解とかの様子をけっこうリアルに撮っている映像も使われている。デヴィッド・アッテンボローがナレーションを担当していることもあり、むしろ超アヴァンギャルドな科学映画を見てるような気分すらしてくる。なんでもウェルカム・トラストが全面協力しているそうで、監督のニック・フェントンは控えめに「ちょっと火山とかウイルスとか出てくるだけのコンサート映画ですよ。雷とかプランクトンとか惑星もでてきます」と言っているが、まあこの表現だけでもけっこうスケール感は伝わるのではないかと思う。

 出てくるビョークは爆発したクローゼットの中から出てきたばっかりのヴィーナスみたいな衣装と髪型(というとよくわからないと思うが、ちょっと名状しがたい)で、この生態系の女王として君臨している。ビョークの存在感が超独特で、なんだかよくわからない振り子の楽器を操ったり、すごい迫力でいかにも成熟した女性らしく歌ったかと思えば必ず最後に子どもみたいな声で'Thank you!!'とお客さんに感謝したり、衣装はちっともかわらないのにいわゆる赤ん坊から老女までのサイクルを繰り返す月の女神みたいに変化するので、見ていて飽きない。全体的に科学映画っぽい映像の使い方なのにビョークが実に魔女/女神的なので、この映画は科学への愛と魔術的な霊性みたいなものが同居したかなり独創的な作品に見える。

 と、いうことで、見ている限りではめっぽう面白いのだが、これ値段が2800円もして普通の映画料金よりずいぶん高い上、一切字幕がつかない(曲名にも字幕が入らない)ので、英語がわからないとキツい。お客さんが四人くらいしかいなかったのだが、この価格設定で字幕もないとなると不親切だよなぁ…