洗濯籠を持った殺人者〜『ザ・ゲスト』(ネタバレあり)

 『ザ・ゲスト』を見てきた。

 舞台はアメリカの田舎町。息子ケイレブの戦死から立ち直れていないピーターソン一家のもとに、ケイレブの戦友だったというデイヴィッド(ダン・スティーヴンズ)がやってくる。ハンサムで親切な好青年であるデイヴィッドはすぐ家族に好かれるようになり、数日間滞在することになるが、ピーターソン家の娘のアナはデイヴィッドが怪しい電話をかけているのを立ち聞きしてしまう。アナが米軍に問い合わせの電話をかけたところ、デイヴィッドは既に死んでいるはずだということがわかった。いったい、デイヴィッドの正体は?というのが主なストーリー。

 そんなに期待していなかったのだが、この手のスリラーにしてはかなり面白かった。全体的には2、30年前(私が子どもの頃くらい)のスリラーをいろいろ真似て作っている感じで、最近の映画に比べるとかなり編集など落ち着いた雰囲気があると思うのだが、話の展開はかなり早い。デイヴィッドの正体が明らかになる(完全に明らかというわけではないのだが)あたりまではスリラーなのだが、正体がバレはじめたと思った瞬間デイヴィッドが完全にホラーに出てくる殺人鬼みたいな様子に変貌し、息もつかせぬアクションを展開しはじめるので、見ているほうは全く飽きない。デイヴィッドがなぜこうなったのか、とかについてはたいへんいい加減な理由付けがなされており、さらに細かいところは全部明かされず観客の想像力にまかされていて、おそらく作っているほうもわざとゆるめにしているのではないかと思われる。いくらなんでも理屈の付け方がテキトーすぎるだろうとは思ってしまうのだが、まあ制作側はたぶんそういう「シリアスに始まるけど最後テキトーになるような昔ながらのアクションホラー」を楽しく作りたかったのだろうからしょうがないか…

 この映画を面白くしているポイントとして、デイヴィッド役のダン・スティーヴンスの演技が良く、さらに撮るほうもスティーヴンスの魅力を引き出そうとあの手この手で工夫しているというところがあると思う。スティーヴンスは言わずと知れた『ダウントン・アビー』のマシューなのだが、この作品ではアメリカ軍人の役ということで話し方はもちろん、筋肉をつけて身のこなしなどもがらりと変えている。絵に描いたような好青年として登場するのに、だんだんやたらに図太い神経をのぞかせるようになり、最後は殺人マシンに…というところに意外性があり、この意外な感じをかなり説得力を持って演じているところが良い。とくに洗濯籠を運んでいたところからすぐ銃撃戦に突入するあたりのシークエンスが非常に面白い。元アメリカ軍人の好青年がにこにこしながら「家庭の天使」ばりに洗濯物を干すという自体、なんともいえない「男らしさ」に関するステレオタイプを打ち破るところがあって面白いのだが、それがいきなりポケットから銃を取り出して殺人マシンへと豹変するということでギャップがものすごく、それを変な違和感なしに演じたスティーヴンスはかなり頑張ってると思う。