内部留保出さなきゃオキュパイするぞ!〜『ホビット 決戦のゆくえ』

 ピーター・ジャクソン監督、ホビット三部作の最終作『ホビット 決戦のゆくえ』を見てきた。

 私はトールキンの原作をちゃんと読んでないのでよくわからないのだが、一言で言うと「内部留保出せ!!」みたいな話だった(この「内部留保」の使い方は経済学的には正しくないと思うが、文字通りお城の内部に隠してあるんだからこの映画に関しては別にそれでもよかろう)。正しい資産の運用をやるといってドワーフご一行様が資産をためこんでる会社(ドラゴンのスマウグ)を皆で乗っ取って、近所の街に死者まで出る犠牲を払って会社乗っ取りを成功させた。ところが乗っ取り側の社長(トーリン)が皆に金を払わないなどと言いだし、市民のリーダーに率いられた一般の人々(湖の街の一般住人たち)が契約を守れ、内部留保を出せと迫ってくる。さらに関係ないところから別の企業の社長(スランドゥイル)もやってきて市民に加勢し、昔持ってた資産を出せとか行ってくるわ、最後はヤクザ(オーク)まで押しかけてくる。ここで社長の判断がおかしいと思った部下(ビルボ)が勝手にクラウンジュエルを持ち出す作戦をとるなどの波乱もある。最後は立てこもりを始める乗っ取った連中、市民、別の企業、ヤクザ、さらに立てこもりを始めた連中の加勢も出てきて五つの軍が入り乱れて戦うという話である。最後は乗っ取り社長トーリンが非を認めてヤクザを退治しに出て行くということで、これはやはり「金をためこんではいかん!公正な法と契約を守って社会にちゃんと還元しろ!」というメッセージを発している映画なのではないだろうか。非常にふまじめに描写したが、まじめに描写しても全体の内容としては強欲がいかに人の心をむしばむ悪徳か、契約を守る公正な精神はいかに大事か、ということを扱ってるので、製作チームの頭の中には金をためこんで怪しい契約で他人を操り、不景気でも一般人にそっぽを向いているような富裕層への反感があるのかもしれない。そういえば湖の住人たちは廃虚になった街にスクォッティングしてて、オキュパイ運動っぽかったしなぁ。

 トーリンが勝手に病気になって多数の民間人死傷者を出すような事態を招いたわりにはまた勝手に治ってしまうなど、ちょっと強引さはあったが、そうは言ってもピーター・ジャクソンの力量はすごいと相変わらず思った。ほとんどずーっと戦闘してるだけの映画で五つも軍勢が出てくるのに、どこで誰と誰が戦ってるかきちんとわかるように撮って編集してある。こんなのマイケル・ベイに撮らせたら本当に戦争やってるのかすらわからなくなるレベルだろう。同時並行でいろいろな戦いを混乱しないように見せる編集がうまいし、遠くの戦闘音を別の場面でも聞かせることで何と何が同時進行しているか細かくつじつまをあわせているあたりの心遣いも良い。役者陣の演技も息があっていて、マーティン・フリーマンは今回はちょっと活躍が少ないのだが、最後ホビット庄に帰ったら家が競売にかけられていた!というお笑いネタのところでは十分喜劇的センスを発揮してくれる。これでホビット三部作が終わってしまうとはいくぶん寂しい気もする。