包摂するメイカーズムーブメントへの希望〜『ベイマックス』

 『ベイマックス』を見てきた。

 形としてはヒーローアクションものなのだが、基本的には家族を失った思春期の少年がトラウマから回復するまでを描いた作品で、非常に繊細な映画になっている。なんといってもベイマックスがケアロボットであるので、全てのアクションが主人公の少年ヒロの癒やしに結びつけられている。どっちかというと『アイアン・ジャイアント』なんかに近いかもしれない。
 
 この映画の面白さは所謂メーカーズムーブメントっぽさが前面に出てるところだと思う。メーカーズムーブメントというのは、ウェブを初めとした技術の発展で今までは専門業者しか作れなかったようなものが一般人でもやる気さえあれば作れるようになった、ということで、ものづくりの民主化DIYの進化形みたいな話である。私も最近までこのことは良く知らなかったのだが、これに関連するテキストを翻訳する機会があってそれ以来関心を持っている。ひたすらものづくりをすることによって5人+1ロボットのヒーローたちが結束を強め、主人公ヒロの傷が癒えていくという『ベイマックス』がメーカーズ映画っぽいというのはいろいろなところで言われているので目新しくもない話なのだが、とくに私が思ったのは、この映画はメーカーズムーブメントの特徴としてよく言われる「民主性」をすごくよく取り込んでいるということである。技術者のピート・ウォーデンが「おたくカルチャーが死すべき理由」でメーカーズムーブメントについて「僕らが巻き込むのに失敗した子供たち皆をはじめから取り込んでいる」と言っているが、『ベイマックス』は、なかなか組織的な科学技術の場には入れてもらえないような疎外されやすい人々、つまりは子ども、女性、民族的少数派、スラッカー(あるいはフラフラ遊んでるヤツ)が自由かつ勝手にヘンなものをいろいろつくることで自己実現をしていく、ということが大きなモチーフになっている。コストパフォーマンスとかあまり考えてないし、問題が起こればひたすら何回もやり直す。やる気と向学心さえあれば他の要素は全然関係ないというDIYの精神のオープンさが全編を貫いているので、すごくポジティヴな気分で見ることができる。この映画におけるメーカーズの文化とは、ものをつくりたい気持ちさえあれば誰でも包摂してくれる大きく開けた楽しい場として提示されている。このへんの「モノを作ること」に対する明るいアプローチは、芸術家が自己隔離に走りかける『アナと雪の女王』とかなり違っている感じで、このへんの明るさの違いに芸術と科学の差を見たくなってしまうのだが、まあこれはもうちょっと詰めて考えないとうまく言語化できないなー。

 ちなみにこの映画、きちんとキャラが掘り下げられた女性キャラクターが三人も出てきていて、アメリカ映画としてはかなり女性についても民族についても差別性がなくオープンかつポジティヴな描き方を保っていると思うのだが、面白いことにベクデル・テストをパスしない。ハニー・レモンとゴーゴーがアクションシーンで言葉をかわすところがあるのだが、展開が早くて話のやりとりをする前に話が前に進んでしまうので会話になってないし、キャスおばさんに話しかけるところでは音が聞こえないので何を話しているかが不明だ(想像だが、たぶんタダシのこと?)。ハニー・レモンとゴーゴーに限らず大人キャラはほとんどヒロがいる場所で全員に話しかけるというような場面が多いので、大人が一対一で会話する場面もけっこう少ないと思う(これは子どもがメインターゲットの映画だから、ヒロ中心になるのは当たり前だし)。さらにゴーゴーが必要な時に必要なことしか言わないような渋めのキャラなのでそれも効いているかもしれない。