ディケンズが苦手〜スタジオライフ『大いなる遺産』

 新宿のシアターサンモールでスタジオライフの『大いなる遺産』を見てきた。スタジオライフなので、もちろんオールメール(キャストはBowlerhat版)。言わずと知れたディケンズの小説の舞台化である。

 …で、思ったのは、とにかく私はディケンズが苦手だということである。そもそもリアリズムの小説一般が大の苦手だし、あのなんともいえないセンチメンタルさとハイコンテクストなユーモアの合わせ技もよく理解できないし、広げに広げた話を強引ながらも全部きっちり全部回収するところもあまり好みではない。完全に趣味の問題なのでこういうのを面白いと思う人がいるのはわかるのだが、自分で見たり分析するとなるとちょっと…というところである。芝居になればちょっとはマシかと思ったが、読みが甘かったな。

 あと、演技は良かったのだが戯曲にちょっと問題がある気がした。長い話を2時間15分にまとめているのでダイジェスト版みたいにも見えるのだが、一方で台詞には繰り返しが多くて、あれはなんらかの効果を狙ってるのかもしれないがあまり効いてなくてただ冗長なだけに聞こえる。あと、この話の内容で2時間15分休憩なしはちょっとキツいかもしれない。

 一番良かったのはエステラ(久保優二)で、このキャラは冷たいだけのいけすうかないお嬢様になりがちでなかなか演じにくいと思うのだが、養母のミス・ハヴィシャムとのぎくしゃくした関係のせいである意味「ぐれた」若い女性を非常に人間味に富んだ様子で表現していたと思う。エステラがなんであんな性格になったのか、というところについてはこの戯曲の台本じたいも結構力を入れて書いているように思ったので、そこは台本のよいところかもしれない。また、エステラに執着して美しい娘に育て上げようとするミス・ハヴィシャムと、ピップを自分はなれなかったような紳士に仕立て上げようとするマグウィッチが対比されており、子どもを自分の鋳型にはめて育てようとすることの愚かしさが全体的に強調されていたと思う。