アンソニー・トロロープ『慈善院長』木下善貞訳(開文社、2010)

ヴィクトリア朝の著名な小説家で、UKではキャノンに組み込まれているが日本では全く人気のないアンソニー・トロロープの『慈善院長』木下善貞訳(開文社、2010)を読んだ。

慈善院長
慈善院長
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アンソニー トロロープ
開文社出版
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 正直ヴィクトリア朝の小説はかなり苦手なほうだし、トロロープも読んだことなかったのだが、実際に読んでみると思ったより読みやすく、面白かった。あえて古めかしい訳文体にしているようなところもあるので少しクセがあるかもしれないし、またお話はいかにもヴィクトリアンな感じでお金のことがほとんどなので日本ではウケないかもしれないが…あらすじとしては、バーチェスターの街の聖職者で慈善院の院長として年800ポンドをもらっているハーディング師が、娘の恋人である先進的な若者ボールドのはじめた改革運動の結果として院長職を追われるまでを描くもので、世相の諷刺がいろいろと詰まっている。地味な話ではあるが、こういう金と政治を丁寧におもしろく書くというのがヴィクトリア朝文学のひとつの型ではあると思うので興味深い。トロロープは全然日本に紹介されてないように思うが、このシリーズでたくさん翻訳が出ているらしいのでもっと読んでみたいし、立派な訳業だと思う。