限りなく完全に近い〇〜ケン・アルバーラ『パンケーキの歴史物語』

 ケン・アルバーラ『パンケーキの歴史物語』関根光宏訳(原書房、2013)を読んだ。

パンケーキの歴史物語 (お菓子の図書館)
ケン アルバー
原書房
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 パンケーキというと材料をまぜて丸く焼けばOKという手軽なイメージがあり、日本語話者だと最近人気があるお菓子ふうなものを想像することが多い…が、この本によるとパンケーキというのはかなり多様なものを含む概念であり、エチオピアのでかくて穴ぼこだらけのインジェラから、サーターアンダギーみたいな形のデンマークエイブルスキーバーまでいろいろなものがパンケーキの一種として扱われている。一方でシュペッツレやヨークシャー・プディングは材料が似てたりするがパンケーキとはいえない。さらに英語でパンケーキと言った場合、アメリカでわりと厚めのホットケーキだがブリテン諸島人がパンケーキ・デイに食うのはクレープに近いものだ。どの文化圏にもあって独自の発展を遂げているため、パンケーキの歴史はなかなか奥深くかつカオスなものになっている。とりあえずパンケーキであるためには形が〇でなければならないらしい。

 ちなみにアメリカにおけるパンケーキの歴史はなかなかダークなもので、奴隷の黒人女性料理人をイメージしたキャラクターが用いられている「アンド・ジェマイマ」のパンケーキミックスは非常に問題含みなものである。人種差別はもちろん、「ミックス粉を手作りの製品のように見せかけて売る」(p. 75)という宣伝戦略にはすごくアメリカ的なものを感じる。この本によると「どういうわけか消費者は、小麦粉と卵と牛乳を混ぜるのは大変な仕事だと考え」(p. 76)たそうで、パンケーキミックスはその産物らしい。これについてはこの間読んだ同じシリーズの『ケーキの歴史物語』でも、アメリカ人はどういうわけだかケーキは生地を作るよりも上をごてごて飾るほうをクリエイティヴな作業だと思っていたので生地のほうはミックスですませて上を塗りたくるほうに力をそそぐ…と話が書かれていたのだが、そういうことを考えてるんならまあアメリカの菓子が不味くなるのも理解できる(理解しても食いたくはならないが)。

 とはいえ、この本を読むとパンケーキの多様さについては理解できるし、また腹が減るのもうけあいなので、パンケーキ好きな人は是非どうぞ。〇〇〇〇!(←パンケーキのつもり。)