アイスランドに渡った海外の古文書学者って全員、殺されるの?〜イルサ・シグルザルドッティル『魔女遊戯』

 イルサ・シグルザルドッティル『魔女遊戯』戸田裕之訳(集英社、2011)を読んだ。

魔女遊戯 (集英社文庫)
イルサ シグルザルドッティル
集英社 (2011-02-18)
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 アイスランドのミステリで、いわゆる北欧ノワールに入れてよいものだろうと思う。アイスランド大学にドイツから留学してきた駆け出しの研究者ハラルド・グントリープが学内で残虐に殺されているところが見つかり、遺族から依頼を受けた女性弁護士トーラがグントリープ家に委嘱されてドイツからやってきた元警官ライヒと一緒に事件を捜査したところ、いろいろとヤバいものが出てきて…という話である。ハラルドは魔女狩りの研究をしている全身刺青男で、古文書の紛失やらなんやらさまざまな歴史ネタが絡んでくる。北欧ノワールというだけではなく、いわゆるビブリオミステリでもある。ネタバレはやめておくが、暗く残虐な話になんともいえないユーモアがからむタッチはけっこう読ませるものがあり、なかなか面白かった。ちなみに最初にライヒが食事をしながらトーラに事件の依頼をするところで「ハラルドは17世紀の研究をしていたが、あまり食事中にふさわしい研究テーマじゃない」というような前置きをするところがあり、トーラが「伝染病ですか?」というようなことを返すあたりは、初期近代の研究者としては個人的に可笑しかった。

 しかしながら、この間読んだ同じくアイスランドのビブリオミステリである『フラテイの暗号』も、アイスランドに古文書の調査にきたデンマークの学者が死体で発見されるという話だったのだが、アイスランドの読書家たちは自分の国に調査にくる海外の学者に恨みでもあるのだろうかと思ってしまった。

 ちなみに『魔女遊戯』も『フラテイの暗号』も、アイスランド語からの翻訳ではないようである。せっかく北欧ノワールが流行っているのに原語からの翻訳ではないというのは、本好きとしては非常に残念なのだが…