ヴェールの女子力〜後藤絵美『神のためにまとうヴェール - 現代エジプトの女性とイスラーム 』

 後藤絵美『神のためにまとうヴェール - 現代エジプトの女性とイスラーム』(中央公論新社、2014)を読んだ。

 現代エジプトにおいて、一時はあまり使われなくなっていたような女性のヴェールがどういう経緯で身につけられるようになっていったかを、神学的議論から女性芸能人のヴェール体験までさまざまな観点から分析した研究書である。基本的に女性たちはヴェールを自発的に身に纏うようになっていったのだが、これについては男性説教師の影響が強かったり、なかなか微妙な権力関係が垣間見えるところがある一方、基本的にヴェールは女性が神のために行う実践ということである種の信仰を通じたエンパワーメントのような側面もあるというところが大変複雑であり、このあたりは読んでいるぶんには大変興味深いが分析するとなるととても難しいな…と素人考えで思った。とくに面白いのは、美しさが売りであったような女性芸能人たちの「私はこんな経緯で神のためにヴェールをかぶるようになりました!」的な改心体験が女性向けのメディアとかで宣伝されていたという議論で、これはかなり型にはまったものでもあるようなのだが、敬虔と野次馬根性とが切り結ぶなんともいえない世界が展開されており、個人的には日本の「女子力」という言葉に通じるような、「女性の力を称えているんだけど実はその奥に実に厄介な権力構造が潜んでいるもの」を感じてしまった。エジプトについて知識がないと、(とくに最初の神学関連の話は)なかなか難しいところもあるかもしれないが、とにかく大変面白い本なのでオススメである。最初のほうがつらいと思ったら、まずは女性芸能人の章を読んでそれから前に戻ったらいいかもしれない。