現代日本の家庭劇として『リア王』を翻案する〜『リアの食卓』

 新宿のシアターサンモールで嶽本あゆ美作、劇団BDP『リアの食卓』を見てきた。現代日本の家庭を舞台に、『リア王』を翻案したものである。

 『リア王』の現代版翻案というとジェーン・スマイリーの『大農場』みたいにかなりの資産がある家を舞台にしたものが多いと思うが、『リアの食卓』もリア王にあたる水沢は世界的に有名な老画伯、長女の皐月は社長夫人、次女瑞希は編集長ということで、資産もあるポッシュな家庭を舞台にしている。主なセットは水沢家の茶の間なのだがかなり上品な洋室である。皐月がそこで父親のためにものすごくいろんな種類の紅茶を用意して家でとれたハーブで料理作ってたり、まあ鼻につくくらい完璧な資産家家庭という感じだ。ここに、昔父親のアトリエで火事を起こして勘当された末娘(コーデリアにあたる)の薫が子連れで久しぶりに帰ってくることから話が始まる。

 全体的には、いかにも財産やら介護やらをめぐって起こりそうな家族間の軋轢を、女性を中心に丁寧に描いたもので、『リア王』の翻案としてはかなりうまくいっているほうではないかと思った。セットも固定だしそんなに激しい動きとかがある芝居ではないのだが、最後まで飽きずに見られる。時々水沢の(とても芸術家らしい)幻想として『リア王』の台詞が入り込んできてちゃんと嵐の荒野の場面もあったり、芸術家を主人公にすることで原作の要素をうまく取り込んでいると思った。あと、もともとの『リア王』と違ってたくさん孫が出てきており、さらに子役がとてもちゃんと演技をしているところは勝因だと思う。

 ただ、疑問もふたつほどあった。まずは言葉遣いにしめる女言葉の割合が高すぎることである。完璧な主婦で社長夫人の皐月はああいう女言葉でいいと思うのだが、鬼編集長の瑞希や芸術家くずれの薫、また若くて他のところではけっこう流行語なども取り入れてしゃべっている孫娘たちも女言葉を頻繁に使用しているところはリアリティがないと思ったし、キャラクターの書き分けとしてかなり不足があると思ってしまった。あと最後の落とし方、私は薫が贖罪のために制作をするところがちょっと納得がいかなかったのだが、まあこれは好みの問題なのかな…