またもや夏夢で事故〜スタジオライフ『夏の夜の夢』

 中野ウエストエンドでスタジオライフによるオールメール版『夏の夜の夢』を見てきた。スタジオライフの夏夢は修士くらいの時に一度見たことがあるのだが、今回はニューカマーというキャストのに行ってみた。歌が入っているところといい、ヒポリタの扱いと職人たちの芝居の部分に(かなり狡猾な)再解釈があるところといい、基本的な台本はだいたい前と同じと思われる。セットはバルコニーのような二階入り口やポールダンスに使うみたいなポール、段差などをたくさん配置してそこを役者がのぼったりおりたりしながら駆け回るというもので、役者にとってはかなり体力が必要な舞台だ。

 全体的には、まあ悪くはないし冗談たっぷりで賑やかなところはいいのだが、なんと途中でパックが完全に出るところをトチる事故が…先日銀座で見た夏夢では小道具が吹っ飛んだし、その前に見た夏夢ではボトム役が骨折したし、私が夏夢を見に行くとどうも必ず悪いことが起こるようだ。私は妖精か何かだったのだろうか。

 今回の上演は、私の記憶にある前回に比べると「ニューカマー」であるせいなのかちょっと役者がこなれていないような印象を受けた。パックがトチったのもそうだし、オーベロンが素で爆笑してしまって台詞が続かなくなったり、あと台詞に反してハーミアとヘレナの背丈があまり変わらなかったり(かなり小柄なヘレナである)、賑やかなのはいいが全体的に前に見た上演よりちょっと素人っぽいところがあるように思った。とくに気になったのはヒポリタである。スタジオライフ版の夏夢では、自分の心に自ら鍵をかけてシーシアスの愛を拒んでいたヒポリタ(そのものずばり、自分に足かせをはめている)が、最初はボロボロだがだんだん真面目な悲劇になる『ピラマスとシスビ』(職人劇団ではなく、アテーナイ青少年劇団という設定)を見てシーシアスの心を受け入れることに決める、というかなり独創的なひねりがある。前回見た時はヒポリタが最初ものすごくブス作りでむくれていて、ところが最後は愛を受け入れたとたんに美しく優雅な女王になる、みたいなメリハリがあってそこが非常に印象に残っているのだが、今回のヒポリタは最初からかなりキレイな人だったので、ちょっとメリハリが少ないような…決して悪くはなかったので、ないものねだりかもしれないが。

 キャストの中ではヘレナとティターニアがとくに良かったように思う。ヘレナ(若林健吾)はとても可愛らしく、かつ敏捷で、小柄な以外はとても原作のヘレナのイメージによくあう。なんというかこのヘレナは、現代風に言うとものすごく「モテないのをこじらせた」若い女性で、ディミートリアスに駆け落ちのことを教えたり森の中で被害妄想に陥ったりするのも、妖精の魔力とかいうよりはむしろモテなすぎて卑屈になっているからという感じだった。反対にティターニア(山粼康一)はドラァグクィーンみたいな派手な格好で歌うど迫力の妖精女王である。こういう色っぽい中年女性のティターニアを見ていると、ひょっとしてシェイクスピアの時代にはティターニアとクレオパトラは同じ女役が初演したのかな…などと思ってしまうが(シェイクスピアの芝居に妖艶な中年女性の役は少ない)、この二作は年代が離れているのでちょっとこの仮説はダメだな…