とても野心的、だが…柿喰う客『完熟リチャード三世』

吉祥寺シアターで柿喰う客『完熟リチャード三世』を見てきた。いつもどおりオールフィメールである。

 『完熟リチャード三世』はかなり野心的なプロダクションである。オールフィメールなのはいつものことだが、今回はキャストがたった7人と大変規模が小さく、さらに80分で『リチャード三世』を最初っから最後までやってしまう。以前、たった9人で『ハムレット』やるというのは見たことあるし、っていうか2人で『ハムレット』やるというのも見たことあるのでまああり得る構成かとは思うのだが、人数を減らしたせいでかなり話をとばさなければならなくなって相当にスピーディである。ちょっとダイジェストみたいなところはあるし、またキャストが他の役で出てくると「〇〇です」といちいち言わないといけなかったり説明的になりやすいいらいはあるのだが、それでもこのキャストと長さできちんと話が通って、小道具も使わずセットもシンプルなのに面白く見られるように仕立ててあるのは感心したし、また黒い服を着ているだけで衣装替えもいっさいないのにいろいろな役を演じ分けられる女優の粒が揃った演技力も良い。

 ただ、キャストを小さくするとそのぶん弊害もある。『リチャード三世』を7人くらいでやる弊害というのはおそらく、出ずっぱりで他の役を演じないのがリチャードだけなので、かなりリチャード中心的になってしまう。もともと『リチャード三世』はリチャードを完全に中心にして展開する芝居なのでリチャード中心主義になりやすく、他の人間関係がおろそかになりやすいのだが、このプロダクションは他のキャストはとっかえひっかえ変化するのにリチャードだけは常に舞台の中心にいて不動であるので余計「宇宙はリチャードを中心に展開している」感が強くなってしまう。まあリチャードの悪行がひたすら魅力的な場面とかはそれでもいいのだが、問題は後半のリッチモンドの存在感がかなり弱くなってしまうことだ。これは女優のせいとかではなく単純にキャストが足りないからなのだが、ふつう、リチャードが「絶望して死ね」の悪夢を見る場面と一緒に、リッチモンドが夢でリチャードの被害者に励まされて勇気を出すシークエンスがあるのだが(ケヴィン・スペイシーのやつとかスプリットスクリーンみたいな技法でやってたね)、柿喰う客プロダクションでは亡霊役でリチャード以外の全女優が使われてしまうので、ここでリチャードとリッチモンドを対比し、リチャードの勢力の弱まりを示唆するのができていない。ここは話の展開としてかなり魅力を減らしているように思えた。 

 さらにリチャードだけズボンをはいていて他の女優がスカートにハイヒールだということについて、ポストトークで「リチャードをあまり醜くせず、どちらかというと他の女優をとにかくキレイにしてリチャードの美しさをちょと減らす方向性だから」という説明がなされていたのだが、美しさ=女性、という図式はどうなのかな…ここはオールフィメールでやる路線としてはたして本当に効果的と言えるのか、ちょっと疑問が残る。

 とはいえ、全体としてはエネルギッシュで面白い上演だったと思う。まだチケットあるようなので、オススメである。