フィンランドの障害者だけのパンクバンドを撮った、ふつうの音楽ドキュメンタリー〜『パンク・シンドローム』

 フィンランド知的障害者だけのパンクバンド、ペルッティ・クリッカン・ニミパイヴァトを撮った音楽ドキュメンタリー映画パンク・シンドローム』を見てきた。

 メンバーは服のほころびにこだわるペルッティ(ギター)、恋人シルッカと婚約中のマッチョなパンク野郎カリ(ヴォーカル)、フィンランド中央党の党員であるサミ(ベース)、一番若くて失恋しちゃうトニ(ドラム)の四人。サウンドはいかにもDIYな感じのパンクで、政治からふだんの生活までいろいろなテーマを歌っており、けっこうクールかつオーソドックスなパンクバンドである。「グループホームを爆破したい」とか、生活に密着した歌詞(?)が面白い。

 と、いうことで、バンドとしてペルッティ・クリッカン・ニミパイヴァトに魅力があるのはまあこの映画を見るとわかるのだが、それ以上にあまり音楽性とかバンドの成り立ちに深く突っ込んでいないところが私としてはかなり不消化であった。ペルッティ・クリッカン・ニミパイヴァトのメンバーはどっちかというと知的障害とかいうよりもむしろ(少なくとも音楽ドキュメンタリーがかなり好きな私にとっては)全員「いかにもバンドマン的変人」で、別にバンド映画をふだんから見ている人にとってはフツー…っていうか、驚くようなことはないだろうと思う。ペルッティは風呂に入らなくて小汚いらしいがまあパンクバンドのギタリストならその程度の人はいても全然おかしくないし、カリはやたらマッチョ野郎ですごく「男らしさ」にとらわれてるみたいでそこもまあパンクのある種のステレオタイプに近い感じだし、一人だけ保守寄りで政治活動とかしてるメンバー(サミ)がいるのはラモーンズっぽいし、ドラマーは一人だけ年齢や性格が違うっていうのもなんというバンドにありがちな感じだ。レコーディング中に演奏がうまくいかなくてかんしゃくを起こしたりメンバー同士で喧嘩始めたり、まあバンドものの王道という感じである。しかしながら撮り方があまりにも淡々としていて、例えばメンバーにバンドの成り立ちや紆余曲折を説明してもらうとか、影響を受けたバンドについて詳しく話してもらう、というような場面が一切ない。何のきっかけでバンドができるようになったのか、とかについては映画のウェブサイトには書かれているのだが、そういうところはもうちょっと映画で説明すべきなんじゃないだろうかと思う。ハンブルクにツアーに行ってビートルズの記念碑(ここ、去年の夏に私が泊まったボロ宿の近くで個人的に面白かったのだが)を見たりする場面もあるので、おそらく影響を受けたバンドについてもきけば教えてくれるんじゃないのかなーと思ったのだが、そういう取材が全然ない。

 あと、撮り方でけっこう手持ちカメラを使用しているのが個人的にはキツかった。手ぶれがけっこうある…

 追記:これはベクデル・テストを通らないんじゃないかと思う。女性同士で話す場面がほとんどないし、話している時もバンドメンバーの誰かの話題だったりするからだ。