美女ぶりを堪能〜『ラ・カージュ・オ・フォール〜籠の中の道化たち』

 日生劇場で『ラ・カージュ・オ・フォール〜籠の中の道化たち』を見てきた。言わずと知れた有名ミュージカルの再演で、日本版も既に30年間やっているそうだ。主演のザザ/アルバンを演じる市村正親は20年以上この役をやっているらしい。

 お話は有名なのだが一応あらすじを書いておくと、舞台は南仏サントロペ。ゲイクラブ「ラ・カージュ・オ・フォール」を経営するオーナーのジョルジュ(鹿賀丈史)と看板スターであるザザ(ザザはドラァグクイーンとしての芸名で、家庭ではアルバン、演じるのは市村正親)は20年間連れ添ったゲイカップルで、ショーを続けるかたわら、ジョルジュが昔はずみで女性と作った息子ジャン=ミッシェル(相葉裕樹)をずっと育ててきた。ある日ジャン=ミッシェルが帰ってきて突然結婚したいと言いだすが、あろうことか相手はホモフォビックな保守政党の議員であるダンドン夫妻の娘アンヌ。ジャン=ミッシェルはダンドン夫妻を招待して自分の両親を紹介しなければならないことになるが、ジャン=ミッシェルは自分がゲイカップルの息子だと打ち明けられず、父親は外務省を引退した元役人だとウソをつき、アルバンを隠して生物学上の母シビルを呼び出して夫婦のフリをしてもらおうとたくらむ。親としてジャン=ミッシェルを育ててきたアルバンは当然怒るが、ジョルジュに説得され、一応おじのふりをして紹介パーティに出席しようとする…ものの、土壇場でシビルがキャンセル。とっさの機転で女装したアルバンが母親のフリをつとめることになるが、最後はゲイカップルなのがバレてしまって…

 主筋はゲイカップルに対する偏見の諷刺と親子の情愛だが、豪華なキャバレーショーが売りのゲイクラブが舞台のバックステージものでもあるので、キラッキラの舞台で展開される歌と踊りが多数盛り込まれている。一番の見せ場は第一幕最後にザザが歌う「私は私」で、これはゲイプライドソングとしてたいへん人気がある歌なのだが、ザザの歌手としての芸の見せ所である一方、息子に「恥ずかしいから隠れていてくれ」と頼まれたザザの心境を表す歌でもあり、話の展開上とても巧みに使われている。またまた前半は抑え気味だったり、コミカルな客いじりをしたりしていた市村正親のシリアスな演技とパワーがここで全開になるのでまあきいているほうは圧倒されるほかない。ステージにいる市村ザザは燦然と輝いており、美女ぶりが堪能できる。

 後半部分は前半よりも流れがスムーズになった感じで、フレンチレストランのオーナーであるジャクリーヌ(香寿たつき)やダンドン夫人(森公美子)なども活躍する…が、ジョルジュとアルバンの演技があまりにも可笑しくて森公美子たちが素で笑ってしまうところなどもあり、そのへんはちょっと物足りなかったかな。終幕では今まではかなりアルバンにひどい態度をとっていたジャン=ミッシェルが悔い改めてアルバンの親としての愛に敬意を表してハッピーエンドになるし(これでアルバンは第一幕最後で歌ったとおり、息子の前でも「私は私」として愛されることが実現できたわけだ)、ラストシーンはジョルジュとアルバンの長年連れ添ったカップルらしい愛情表現でユーモアと哀愁をまじえて落としている。

 しかしながらこのミュージカルは1983年にアメリカで初演されたそうだが、その頃作られたものとしても全く古びていなくて完成度も高く、誰にでもわかりやすく面白いし、非常に注意深く丁寧に作られた作品なのだと思う。アルバンが息子の結婚話をきいて「女と結婚するなんて育て方を間違ったのかしら」と発言するあたりはちょっと古いかもしれないが(今では同性愛者のカップルが育てたヘテロセクシャルの子どもたちがたくさんいて、著名になった人もいることはよく知られているよね?)。