炎上マーケティングに超弱い西部の荒くれ男たち乱舞!チェコスロバキアの60年代ヘンテコ西部劇映画『レモネード・ジョー 或いはホース・オペラ』(ネタバレあり)

 1964年にチェコスロバキアで作られたパロディ西部劇映画『レモネード・ジョー 或いはホース・オペラ』を見た。これ、とにかくトンチキでヤバすぎる映画である。DVDが絶版である上レンタルもあまりないようだが、皆見たほうがいいかもしれない。

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 とにかくあらすじがすっとんでるので、最後のオチまで書こうと思う。舞台は荒くれものが闊歩し、悪党バッドマンが支配するアメリカ西部の町。ウィスキーを飲んだくれた酔っ払いが暴れてばかりの町にやってきた白ずくめの流れ者ジョーは、禁酒キャンペーンをやっていたグッドマン父娘がバーで男どもに絡まれているのを発見し、鮮やかなガンさばきでクズどもに勝利。カウンターに近寄ったジョーはさわやかに「コラロカ・レモネードをくれ」。そう、ジョーは一切酒が飲めない、三度の飯よりレモネードが好きなクリーンなヒーロー…と見せかけて、実はコラロカ社のステマ(というには明らかすぎだが)をしながら西部を渡り歩く超敏腕セールスマンだったのだ!世間知らずな禁酒運動家の娘ウィニフレッドも、百戦錬磨の酒場の歌姫トルネード・ルーもジョーにぞっこんになり、荒くれ者どもはジョー炎上マーケティング(銃を撃って宣伝するんだからまさに炎上マーケティングだ)にイチコロで「飲んでも人殺しの銃の手許が狂わない」コラロカ印のレモネードに殺到、レモネードハウスを作ったウィニフレットと父のグッドマンは大もうけで酒屋はあがったりになる。ところがそこへバッドマンの生き別れたきょうだいで、手品師でありお尋ね者でもあるホゴフォゴがやってきて、ウィニフレッドに一目惚れ。ホゴフォゴはアルコールをたった一滴でも浴びるとジョーが失神してしまうというヒーローの弱点を知り、ジョーに袖にされて嫉妬に狂ったルーを抱き込んで邪悪な計画でジョーを殺してウィニフレッドを手に入れようとする。(これ以降ネタバレなので読みたい人は無視してね!)ジョーは惚れた男を哀れに思ったルーのおかげですんでのところで命を救われ、ウィニフレッドを解放してホゴフォゴと最後の対決に向かうが、アルコールを浴びせられ、ホゴフォゴに銃で蜂の巣にされてしまう。ホゴフォゴは逃げ出してウィニフレッドを見つけ、ルーやきょうだいのバッドマンを殺してウィニフレッドを手に入れようとする…が、なんと生き返ったジョーに逆襲されてしまう。そう、コラロカ印のレモネードは万能薬であり、たとえ銃が心臓を貫通してもレモネードをふりかければ生還するのだ!レモネードパワーでホゴフォゴを倒したジョーだったが、なんと死んでしまったバッドマン、ルー、ホゴフォゴは皆、ジョーの生き別れたきょうだいであったことが判明する。全員をレモネードパワーで蘇生させ、そこにコラロカ社の社長も到着。実はジョーはコラロカ社社長の御曹司であった。ビジネスにちょっとワルい風味を加えようと考えたコラロカ社長はウィスキーとレモネードを組み合わせたマーケティングを提案、西部の町に平和が戻るのであった…

 とりあえずこの映画、画像がジョーが出てくる場面は全体に黄色、ウィニフレッドが出てくるところは赤…というように、やたらサイケに色彩を調整した映像で作られているので、単純に視覚的に目がチカチカしてすっ飛んで見えるというところもある。西部劇というよりは、『イエロー・サブマリン』とか『ワンダーウォール』とかに近いようなサイケデリック映画の見た目である(Acid Westernとかいうらしい)。ただし内容はむしろ『唇からナイフ』や『バーバレラ』みたいな、60年代のキャンプですっ飛んでおバカな笑いに充ち満ちた作品となっている一方、同じ時代のチェコ映画ひなぎく』なんかに共通する、あらゆるものを笑い飛ばすヘンテコなパワーにも溢れている。

 まあとにかく内容のおバカっぷりたるやとんでもないもので、ジョーの正体がウィニフレッドにバレてしまって勢いで結婚の約束をするところではウィニフレッドが「あなたは南西部と統括するセールスマンなのね!給与は1000ドル、賞与はその10%、結婚したらその5%は私がいただくわ!」ジョー「5%は多いよ!4.5%はどう?」とかなんとか給料についての交渉をしながらロマンチックに(?)愛を語り合っており、まったくジェーン・オースティンもびっくりの資本主義トークが繰り広げられる(これは西部劇をパロっているのか資本主義をパロっているのか単に面白いことをしたいのかわからないが、たぶんその全部+αだろう)。悪党をやっつけてはわざとらしく「レモネードさえあれば銃の手許が狂わない!」とにこやかにレモネードを飲むジョーはまるでアメリカのCMみたいで、とにかく可笑しい。さらに改心したルーが「今度は酒を出さないレモネードだけのクリーンな売春宿を開くわ」と夢を語ると禁酒運動家のグッドマン父娘が「素晴らしい!」とホメたり、どうもこいつら酒さえなければ人殺しも売春もOKみたいでとにかくいろいろ価値観が狂っていてそこも笑える。おそらくは資本主義と社会主義両方に対するいろんな諷刺が含まれているのだろうが、あまりにも話がぶっ飛んでいて笑うのに忙しくてそこの分析にまで到底至らなかった。脳ミソが溶けて腹がよじれないようにするだけで精一杯だ。

 ちなみにこの頃にはロシア東欧地域でRed WesternとかOsternと言われる社会主義圏手作り西部劇みたいなものがいくつか作られていたそうで、『レモネード・ジョー』はその代表作であるということだ。もうちょっとその手のものを見てみたいが、日本語版DVDはもちろん(『レモネード・ジョー』日本版はかなり苦労して中古で入試した)、英語版すら入手が難しそうなものが多いなぁ…