愉しい作品だが、ポッシュすぎて…〜東京芸術劇場『メリー・ウィドウ』

 東京芸術劇場でフランツ。レハールオペレッタメリー・ウィドウ』を見てきた。大変有名な作品だが、見るのは初めて。

 これはヨーロッパの架空の小国ポンテヴェドロ出身である富裕な寡婦ハンナ(タイトルロールである「陽気な寡婦」)の財産をめぐって男たちが繰り広げるドタバタに、他のポンテヴェドロ人たちの不倫などを絡めた作品である。ポンテヴェドロは破産寸前なのだが、万一ハンナが他の国の男と再婚し、大富豪であった亡き夫の遺産を持って別の国に移動してしまうと、ポンテヴェドロの経済はそれだけで傾いてしまう。ポンテヴェドロの公使であるツェータ男爵は独身のダニロ伯爵に命じ、男の魅力を総動員させてハンナと再婚させようと企むが、実はダニロはハンナの元恋人で、2人は身分違いだということで仲を引き裂かれたのであった。親の反対で結婚できなかったダニロにとって、今さら金持ちになったハンナに求婚することは浅ましく思われて到底無理だし、今や大富豪で自立した大人の女であるハンナも自分のもとを去って行ったダニロに自分から求愛するのは自尊心が許さない。心の底では惹かれ合っているが見栄が邪魔してなかなか素直になれない2人の運命やいかに…

 もともとの話はパリのポンテヴェドロ大使館が舞台だが、これは前回芸術劇場でやった『こうもり』同様、日本を舞台に翻案している。『こうもり』はちょっと日本人女性がハンガリー人のフリをするなど若干モダナイズに無理があったように思うのだが、今回はもともとパリ大使館にたむろすポンテヴェドロ国の人々が中心の話なので、舞台を日本大使館にすればいいだけで『こうもり』よりもモダナイズはすっきりしている…のだが、最後ちょっとまた難関がある。原作ではパリのマキシムで美しいショーガールたちがカンカンを踊るシークエンスがあるらしいのだが、これを日本でやるとちょっと無理があるなという気はした。

 PONTEVEDROという文字がいっぱいに書かれた床と壁の上に椅子やテーブルがあるだけちおうわりとシンプルなセット(中欧というよりは東欧っぽい感じのデザイン)は見た目にとても効果的だし、奇抜な色合いでいかにもヨーロピアンなポンテヴェドロの民族衣装なども面白く、また全体的に愉快な雰囲気の中にも焼けぼっくいに火がつく大人の男女の機微が表現されていてとてもよくできた作品なのはわかるのだが、私はやっぱり『こうもり』同様ちょっと苦手だなと思ってしまった。やはり音楽も演出もあまりにも洗練されてポッシュな感じでなんとなく引いてしまうんだと思う。もう少し慣れればもっと愉しく見られるのかもしれないが、そうなるまでには時間がかかりそうだ。